これに対し、北朝鮮は2006年10月に初の核実験を行った後、ほぼ2~3年間隔で実験を繰り返してきた。これは、技術的な側面もあるものの、実験を行うことが、最高指導者のためになるかどうか、という政治判断が働いているからだ。例えば、06年10月の実験は、米国によって凍結されたマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアにあった金正日総書記の秘密資金を取り戻すためだった。韓国政府の元高官によれば、当時、米韓が北朝鮮の金桂寛第1次官に実験しないよう求めたところ、金桂寛氏は「これは単純に軍事の問題なのではない」と釈明したという。
朝鮮労働党の元幹部が説明した「核の使用規則を確認するためのミサイル発射」という説明は、間違っていないだろうが、おそらくそれは北朝鮮内部に対する大義名分の一つだろう。北朝鮮は実際、法令が採択される9月8日の前から、多数のミサイルを発射しているからだ。
むしろ、興味深いのは、「ミサイル発射の期間を11月半ばまでから、12月半ばまでに延長した」という事実だ。これについては、核実験との関連が疑われる。
日米韓の情報関係筋によれば、北朝鮮は5月末には核実験に踏み切れる態勢に入っていた。ただ、そこから、最終段階でみられる、実験場付近での観覧施設の設置や、実験場につながる道路の統制・警戒態勢への移行に踏み切っていない。過去6回の実験をみると、この最終段階に入ると、最大2週間で実験が行われていたという。もちろん、今の状態でも核実験に踏み切れるが、「政治効果」を考える北朝鮮の場合、観覧施設などの設置は重要な準備作業の一つだ。
北朝鮮がなかなか実験に踏み切らないのは、中国の存在があるとみられる。前回、2017年9月の実験の際は、むしろ中朝関係は悪く、実験してもしなくても中朝関係に大きな影響はなかった。さらに韓国は文在寅政権、米国はトランプ政権で、北朝鮮にとって、核実験をすることで「政治的な収穫」が見込める状態にあった。ところが、現在の状況は正反対だ。ロシアはともかく、北朝鮮にとって頼りになる存在は中国しかいない。北朝鮮の核実験を歓迎していない中国を仮に怒らせたら、新型コロナウイルスなどの影響で、経済がどん底状態にある北朝鮮は手ひどいダメージを受けることになる。
「ミサイル発射期間の延長」は、「核実験をするかどうかの最終判断」の先送りを意味するかもしれない。あるいは、「中国に反対されて核実験できないため、代わりにミサイルをたくさん撃って、軍や科学者等のガス抜きをしている」とも考えられる。
ミサイルを乱射しているからと言って、それは北朝鮮が絶好調だ、ということにはならない。
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