ライフスタイル

2022.11.20 18:00

「地域」をブランド化することで高付加価値を生み出すイタリアの食材


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トレヴィーゾのリゾット

前述のように、中身のミンチで生ハムの良し悪しがわかってしまうトルテッリーニしかり。ラザーニアもラグーとともに芳醇なパルミジャーノ・レッジャーノの香りが必須。ローマっ子のソウルフードであるカルボナーラにはペコリーノ・ロマーノ・チーズと決まっている。

またジェノベーゼ・ペーストのパスタは、いまや世界中の定番料理となったが、食材であるバジルの葉はジェノヴァ産に限ってD.O.P.に指定することで、地域資産として利用しているあたりはさすがとしかいいようがない。

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ローマのカルボナーラ

食材の持ち味をとことん生かし切るのがイタリアの家庭料理。ゆえに、食材は単体ではなく、料理という形で日々人々の舌にすりこまれてこそ地域で脈々と受け継がれ、ひいては、世界の人々を魅了する強いブランド食材になっていくのだ。

なぜ日本では地域食材が輝かないのか


翻って日本の場合、イタリア同様に、地域に当たり前に根ざしてきた一次産品があるのに、国内外に輝きを放つものがあまり見当たらない。それは、イタリアが郷土料理を通じてその奥にある食材の価値を普遍化しているのとは対照的に、日本では単一的な郷土料理そのものとして地域食が語られがちのため、食材にまで光が当たらないからだと考えている。

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もちろん、日本の郷土料理は、土地ごとの風土がもたらす自然の恵み、地域の信仰や習慣、伝統行事などが生んだ、後世に残すべき大切な宝だ。しかし、「しょっつる鍋」は知っていても「しょっつる」が何かを知る人はほとんどいない。また「しょっつる」という素晴らしい魚醤を、しょっつる鍋以外の料理で表現されることもあまりない。

時代の変化とともに郷土料理は色褪せ、故郷の味に愛着を持つ人たちは減り、観光客も一度食べればおしまい。自ずと地域食材の価値も薄れていくのだと思う。

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ならばいっそ、素材の持ち味をとことん活かすイタリアのマンマ式の調理法で、日本の画一化された郷土食に新たな息吹を吹き込むことはできないか。従来のお決まりの調理法だけでは気づかなかった食材のポテンシャルを引き出し、価値を磨き直すことができるのではないか。

そんな独自の信念のもと、私は、この数年間、実際に鹿児島県や熊本県、岡山県の小さな市町村で、イタリア料理という手法で地域食材を磨き上げる手伝いを少しずつ行ってきた。次回のコラムでは、具体例を挙げて紹介したい。

連載:イタリアの「食」に学ぶ地域再生のヒント
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文・写真=山中律子

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