岩本:大学でロビイングを専攻していて、学びと茶道の活動の両面がありました。ビジネスでは時に法改正をしながら障壁を乗り越える必要があり、文化も似た面があります。大学1年時はフィリピンに留学して英語を勉強し、2年生からアメリカのコロラド州にあるボルダーに留学しました。当時は、現地で茶会を開くといった活動もさせて頂いていました。
中道:起業も在学中でしたか。
岩本:はい。在学中での起業で、転機はインターンに応募したことでした。
留学を終えた3年の夏に、アメリカから東周りで南米やヨーロッパ、中東、アジアと世界各国を旅してから帰国すると、周りの友達が就職活動をはじめていたことに驚きました。
私は、ヒッピーのような格好でインターンや合同説明会に参加したのですが、周りが黒スーツを着ている姿を見て、「終わってるな」と感じてしまいました。「こんなところでは生きられない」と、すぐに起業を決意しました。
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中道:あの中に混じることはできないと思ったと。
岩本:思いましたね。
中道:現代の日本人は、目の前の問題について自分で考え、一歩踏み出して行動し、自分なりの答えを出すプロセスが苦手なはず。ですから、起業は人生を学ぶためにすごくいい一歩に感じます。もちろん、苦労も少なくありませんが、面白いと感じているのではないでしょうか。
岩本:そうですね。起業から5年が経ち、アップダウンはありつつも、今は組織化が進み、チームもよく頑張ってくれています。自分が最初に一歩を踏み出したことで、少しずつ価値が生まれていると思うと、ワクワクしますね。
中道:現在の規模について聞かせてください。
岩本:メンバーは25人程度で、「文化資産」をキーワードに、文化というアセットを活用しながら多様な事業展開を行っています。具体的には稽古場を運営していたりもします。
「稽古照今」という四字熟語は、歴史書である古事記に記された「古(いにしえ)を稽(かむが)へて、今に照らす 」という言葉から来ています。そのため稽古も、古の価値観に触れ、自分はどんな目的のもとで生まれてきたのか、あるいはどのように社会に価値を還元できるかを考えるプロセスです。
中道:素晴らしい考えですね。
岩本:日本は経済的には確かに衰退をしているかもしれませんが、立派な考え方や文化があります。稽古のプロセスも、起業家やアーティストたちが最も必要としていることでもあるはずなので、私たちは「自分たちがどこを目指すのか」と考えるための稽古場を運営しています。
また、文化は地方創生やウェルビーイング、サステナブルといった大義名分とセットで語られる言葉なので、お茶の持つ多面性や文化・精神性、プロダクトの強みを活かし、他企業との共創事業も行っています。
中道:なるほど。
岩本:ほかにも、日本茶工場を承継し、新たな技術開発と効率化による流通などを手掛けています。お茶は人流が発生すれば飲まれるので、今はお茶の需要を生み出すような、人流を発生させるための事業も大企業とともに進めています。