職員:そうですね。他の企業さんは子どものためにイベントを行ったり勉強を教えてくれたりしていますが、 実は私たち施設職員にとって一番助かるのは、施設や施設周辺の清掃活動です。
うちの職員はみな子どものために福祉の仕事をしたくて入ってきますが、 いざ入ってみると子どもからひどい言葉を掛けられてノイローゼになる人も多く、 離職率の高いキツい仕事なのです。 施設の掃除までは手が回らず、土のグラウンドなどはもう雑草だらけです。
知らない大人が来て、自分たちが遊ぶ広場を掃除していれば、子どもたちも陰から見ています。そうなれば自然と、話しかけてくる子どもが出てくるものです。
そうやってお互いの名前と顔を覚えて、 人として信頼関係ができた上でプレゼントをもらえば、 はじめて子ども達はそれを大切にしようと思うでしょう。
角谷:──なるほど、よくわかりました。掃除なら私たちは得意です。ぜひ掃除から始めさせてください。
……以上のような会話ののちに施設の中を案内されたが、子ども達が遊ぶ広場や通路は、本当に雑草だらけだったのである。
こうして私たちも施設の掃除活動を始めた。アメニモマケズ、カゼニモマケズ、愚直に。
「福田会」施設内にて清掃活動に勤しむ電通社員
「福田会」施設内にて清掃活動に勤しむ電通社員
「おじさん、ぼくも手伝うよ。」
すると驚いたことに、本当に職員の方が言っていた通り、施設の子どもが話しかけてきたのである。
「おじさん、ぼくも手伝うよ。」
やはり子ども達は隠れて見ていたのだ。初心者だったわれわれも、 ほんの少しだけボランティアの意味が分かったような気がした。こちらの思い込みの親切を押しつける代わりに、 相手の気持ちを知ることが前提なのだと気づいたのである。いま思えば本当に、一方的にランドセルを送らなくてよかった。 己の世間知らずを痛感させられた。
まったく日頃の仕事では得られない貴重な経験だった。現在でもわれわれ電通有志メンバーは取引先有志との合同チームで支援活動を継続しているが、訪問するたび、社会人としての勉強をさせてもらっている。
清掃活動に勤しむ電通有志メンバーと取引先有志
ちなみに福田会で育った出身者には、国立静岡大学に進学、2020年厚労省に入省した高橋未来さんのような例もある。
新型コロナのあおりも
今回のコロナ禍は実はビジネス界だけでなく、児童福祉の世界にも大きな影響をおよぼした。
2020年から児童は外出を規制されたため、46名が狭い施設内で過ごすことになった。 同時に、隣接する広尾ガーデンヒルズで在宅勤務をする住民達からは「子供たちが遊ぶ声がうるさい」とのクレームも入った。職員の業務負担や精神的ストレスも増大。 また、それまで定期的に施設を訪問し、人知れず支援していたさまざまな民間企業の支援活動も自粛気味になっていく。
中で電通「ボランティア部」は変わらず施設訪問を継続し、サポートを続けた。結果われわれの活動は、施設に関係する企業や各種団体、行政機関等に配布される同会の法人向け広報誌に取り上げられるようになった。