飢え、寒さ、同士討ち、ロシア軍徴集兵の降伏もしかたない

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第92機械化旅団はウクライナ軍で最も優秀な部隊の1つで、ロシア軍にとって最も危険な部隊だ。そのため、訓練や装備が足りず、統率もとれていないロシア軍の徴集兵が、11月7日にウクライナ東部ドンバス地方のスバトボ付近で第92機械化旅団と他のウクライナ軍の旅団に攻撃されてすぐに降伏したことは責めることができない。

ウクライナ東部での反攻は3カ月目に入った。ロシア軍はウクライナ軍の動きを鈍らせようと(現在のところ失敗している)準備ができていない徴集兵を絶望的な前線に投入しているが、この降伏は来るべき事態の前触れかもしれない。

深まる冬も、ロシア軍にとって追い風になりそうにない。

13日にネットに流れた動画には、7日に降伏した少なくとも21人の中年のロシア軍徴兵(おそらくロシア政府が9月から強制的に兵役につかせた約30万人のうちの一部)が映っていた。「指揮官は諦めている」と両手を縛られた徴集兵の1人は話した。将校は「徴集兵らを虐殺の場へ放り出した」

前出の徴集兵はスバトボを占領しているロシア連隊(第346機動小銃連隊などが含まれているという)の悲惨な状況を語っている。スバトボの戦前の人口は1万6000人で、高速道路P66に隣接している。この高速道路は森や畑を抜けてドンバス地方の大都市の1つセベロドネツクまで延びている。

ウクライナ軍は7月までセベロドネツクを支配していた。ウクライナ政府にとってこの街の解放が最重要課題となっている。北から近づくとスバトボを通過することになる。ウクライナ東部司令部が第92機械化旅団をその地域に配置したのは理由がないわけではない。その任務を遂行できるとすれば、第92機械化旅団しかない。

第92機械化旅団はもともとウクライナ北東部ハルキウの南に駐屯していた。現在ウクライナ軍で最も訓練され、最も装備の整った部隊の1つだ。この旅団は2つのT-64戦車大隊と、新型のBTR-4装輪装甲車に乗った3つの歩兵大隊それに砲兵、工兵、防空兵、支援兵を擁している。各大隊は約40台の装甲車と兵士400人を抱える。

第92機械化旅団とその姉妹部隊である第93機械化旅団は、9月初旬にウクライナ軍が東部で反攻を開始した際に前線に立った。第93機械化旅団はバフムト付近でロシアの傭兵による度重なる攻撃を防いできた。一方、第92機械化旅団はスバトボに迫っている。

第92機械化旅団が前進する勢いを維持していることはロシア軍にとって恐ろしい兆候だ。ウクライナの冬は通常、凍つく前に雨が降り、ぬかるむ。歴史的に、泥は軍事行動を遅らせる。そのため、ロシア軍の作戦の立案者はウクライナの攻撃から解放されることを期待する理由があった。

もし第92機械化旅団が冷たい泥を心配しているとしても、それを示すことはないだろう。一方、ロシア軍の徴集兵は悲惨な目に遭っている。降伏した徴兵は13日の動画で「3日間、飲まず食わずだ。塹壕の中で濡れていた」と語っている。

さらに悪いことに、わずか11日間の訓練しか受けていないらしい徴集兵は自分の連隊から銃撃を受けている。「自分たちが撃ったら、相手も撃ってきた」。同士討ちは指導力と規律の崩壊を意味し、ウクライナ軍屈指の旅団と対峙する連隊にとって不吉な展開だ。

ウクライナ軍は伝統的な冬の休戦をする様子はない。ロシア軍に消耗した連隊を休ませてリセットし、そして戸惑う徴集兵を訓練する時間を与えることもないだろう。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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