3つのP視点から見えてくる、小さくて優れた循環経済モデル

イラストレーション=MUTI

新型コロナ感染拡大とロシアのウクライナ侵攻という想定外の危機が立て続けに起き、世界は経済社会活動の減速を余儀なくされた。

サプライチェーンは混乱し、海外からの原材料や食料が高騰するなか、海外からの原材料調達に頼り、大量生産・大量消費を促してきた「リニアエコノミーモデル(直線型)」の脆弱性が露呈した。

それに反発して、国内の資源を循環させて長く使い続け、廃棄を出さない新しい経済の仕組みへの移行が加速している。それは、欧州発の資源を循環させる経済システム「サーキュラーエコノミー(資源循環型)」だ。

サーキュラーエコノミーは、「持続可能な脱炭素化経済」への転換を図るため、2015年に欧州委員会が打ち出した新しい経済モデルになる。EUは、廃棄を出さない仕組みをビジネスモデルや政策の設計段階から組み入れ、環境負荷軽減と経済効果、雇用創出を同時に促すという経済成長戦略「サーキュラーエコノミーパッケージ」を進めている。

それからわずか7年の間に世界規模でサーキュラーエコノミーの考え方が広まり、7年前にはなかったビジネスモデルに各国・各企業が到達している。私が1年前まで拠点としていたオランダではさまざまなビジネスモデルが誕生したが、そのひとつが月額制ジーンズを提供する「MUD Jeans」だ。

利用者が使用したジーンズを修理して長期間使用し、使えなくなった段階でそれを素材に戻し製品化。再度製品を利用者に供給するという廃棄ゼロの先進的なビジネスモデルになる。

EUは20年に、15年の「サーキュラーエコノミー行動計画」を刷新。市民に「修理する権利」を認め、企業にサーキュラーエコノミー型の設計・デザインを促す取り組みを本格化させたことも、各国や企業の移行を促進した。だが、製造時点で環境負荷が伴うものづくりは、設計・デザインをサーキュラー化しただけでは自然をプラスに回復させることは難しい。

また、現状維持の意味合いの強い「サステナブル」な施策も、自然を元の状態に戻す力は残念ながらない。必要になるのは、自然を回復させ再生する施策だ。英国のエレン・マッカーサー財団が提唱する、自然システムを再生する「リジェネラティブ・ビジネス」が注目されているのは、そのためだ。

私はよく「サーキュラーエコノミーの眼鏡をかけてみると」という表現をするのだが、眼鏡をかければ、これまで課題だったものが可能性に、廃材が宝のような資源に見えてくる。それを実践で示そうと、京都の店舗から出る廃棄食材を利用した「八方良菓」という焼き菓子屋を今年から始めた。豆腐屋のおから、蔵元の酒かすや和菓子の端材などを利用したシュトレンを製造し、販売している。

小さな取り組みでも、質が優れたものであれば、ベンチマークになると思う。ただし、サーキュラーエコノミーの本質を理解したうえで取り組むことが必要だ。環境(Planet)の視点だけでなく、利益(Profit)や人々の幸福度(People)を合わせた「3つのP」の視点をもつこと。ESG投資と同じアプローチだ。その視点を踏まえて、今後は、小さくても優れたサーキュラーエコノミーのモデルづくりを進めていきたい。

安居昭博◎Circular Initiatives&Partners代表。サーキュラーエコノミー研究家。1988年生まれ。東京都出身。ドイツ・キール大学大学院「Sustainability, Society and the Environment」プログラム卒業。オランダとドイツでの活動を土台に日本でも多くのSXに取り組む。

文=中沢弘子 イラストレーション=MUTI

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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