ビジネス

2022.11.11

機械翻訳DeepL CEOが語る「行間を読むAI」「ニューロネットワークの美」

DeepL CEO ヤロスワフ・クテロフスキー氏(撮影=曽川拓哉)

「DeepL」。2016年、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどなみいる大手IT企業が席巻しているかに見えた機械翻訳市場に流星のごとく現れ、ユーザーの心をわし掴みにした機械翻訳ツールだ。

人工知能を活用したニュアンスの訳出や口語の翻訳、そして訳文出力のスピード感はとにかく出色だ。プロの翻訳者によるブラインドテストでも、競合製品を大きく引き離したという。2020年3月には日本語にも対応、日本人ユーザーも急増中だ。

その「DeepL」 CEOのヤロスワフ・クテロフスキー氏がこのたび来日した。コミュニケーション戦略研究家の岡本純子氏によるインタビューで以下、お届けする。

後編はこちら>>「翻訳者の未来」「AI時代に需要が高まる職業」。DeepL CEOはこう答えた


技術の実装は「タイミングがすべて」


──現在、29言語に対応されていますね。

はい。ですが、われわれの目的は「言語の提供」ではなく、あくまでも「究極の高品質の提供」です。ですからサポートする言語がたとえば150までにはなるとは思っていません。使用できる言語に関してはすべて高品質で提供します。

──DeepLの前身、「Linguee」でオンライン・ディクショナリーを開発されていますが、どのように発想され、開発の成功にこぎつけられたのでしょう?

機械翻訳についてはもっと前から考えていたのですが、オンライン・ディクショナリーが実現したのはちょうど、社会がAIやニューラルネットワークが「翻訳に使える」と気づき始めたタイミングでした。

適切なタイミングに適切なアイデアがあり、それを実現する技術が適切なレベルに到達した幸せな瞬間に、商品やサービスは実現します。「タイミングがすべて」といっても過言ではありません。



──「同時翻訳」についての可能性はどうでしょうか?

翻訳のスピードが非常に速いので、テキストは基本的に同時翻訳ができるようになったと思っています。例えばメッセンジャーやテキストコミュニケーション・ツールを通じて、翻訳されたテキストでチャットすることもできます。

──「音声翻訳」についてはどうですか?

音声は少し難しいので、まだ時間がかかりそうです。音声翻訳ではテキストを翻訳するだけでなく、まずは「音声を理解」しなければならない。この2つを同時に解決するのは大変なことです。しかしわれわれは目下この問題に取り組んでいますし、そのための調査も行っています。

──DeepLの精度を数字で表すとどうでしょう?

翻訳精度を数字で表すのは難しいですね。入力されたテキストが非常に明確で必要な情報がすべて含まれている場合と、原文のテキストがあまり良くない場合ではかなり違いますし。AIが「この文章は曖昧だな」とか「この文章はうまく書けていないな」などと気づいて、翻訳する前に原文に戻って推敲することもあります。

ただ、訳し元のテキストに問題がないなら、DeepLの翻訳は非常に正確で、出力はほぼ完璧(pretty much flawless)といっていいと思います。

翻訳精度はたしかに、翻訳の言語ペアにもやや依存します。英語とドイツ語がおそらく最高の言語ペアです。他の言語ペアでは、英語×ドイツ語とまったく同じ品質レベルとはいかない可能性があります。

──ドイツ語などと比べて日本語の翻訳の質はまだ低いでしょうか?

日本語は、DeepLが扱う上ではまったくすばらしい言語です。ただし、英語とドイツ語のペアが間違いなく一番だと思いますし、英語とフランス語も近いものがあります。その理由は「これらの言語のためのトレーニング教材が世界中にたくさんあるから」です。これらの言語ペアに関してはすでに翻訳されたテキストが潤沢にあるので、AIを訓練するのが楽なのです。
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インタビュー=岡本純子 翻訳・文=石井節子 写真=曽川拓哉

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