今年9月には、ハリケーン「イアン」がフロリダ州南西部を襲い、100人以上が死亡したが、チョンが気候変動に関心を持ち、この分野の投資を志すきっかけになったのが自然災害だった。「ビジネススクールに通っていた頃、気候変動で真っ先に壊滅する産業は保険業界だということに気づいた」と彼は話す。
2018年に発生したカリフォルニア州の山火事「キャンプファイア」は、同州で最大規模の被害をもたらし、関連する保険金請求で地元の保険会社が倒産していた。
キョンソンの父は、現代グループの保険会社「現代海上火災保険」の会長のチョン・モンユン(67)で、自然災害の増加は、彼の家族の事業を脅かすことにつながる。「これは何かのサインかもしれないと考え、その当時からインパクト投資にもっと積極的になろうと考えた」と彼は話す。
2019年にコロンビア大学でMBAを取得したチョンは、クラスメイトのScott Jeunと共にプライベートエクイティ会社シルバン・グループをシンガポールで立ち上げた。同社は、環境や社会に貢献し、かつ利益を生む投資に特化したインパクト投資に注力している。
同社は現在、ロックフェラー家やシンガポールのユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)、ハンファ生命などから2億ドル(約293億円)の出資を受け、気候変動対策に取り組む企業への投資を行っている。
シルバンは、今年2月にシンガポールのヘルスケアおよび製薬会社4社の株式の過半数を1億4050万ドルで取得した。「この投資は、直接的に気候変動に関わるものではないが、すべては絡み合っている。人々が、教育、医療、住宅、その他すべてに満足していなければ、気候変動対策を推し進めることはできない」とチョンは語る。
彼は、長年NPOに関わっており、2012年には、社会的意義のある企業を生み出す社会起業家をオフィススペースの提供などで支援する非営利団体「ルートインパクト」を韓国で設立した。また、世界最大級の慈善団体であるロックフェラー・フィランソロピー・アドバイザーズ(RPA)の理事も務めている。
チョンは、彼の祖父の現代自動車創業者のチョン・ジュヨン(鄭周永)から、「金持ちは社会に恩返しをする必要がある」と教えられたことがきっかけで、慈善活動に目覚めたという。1915年に北朝鮮の貧しい農家に生まれたチョン・ジュヨンは、1988年に食料不足に悩む北朝鮮に、500頭の牛を送ったことで知られている。