「暮らしのなかで、五感全部を使うことが大事なんだと思うんです。感じたり、匂いを嗅いだり、耳を澄ましたり。そうすることで、何が本当の幸せなのかを自分で認識する。本当の豊かさを自分で確認する。それができているんでしょうね」
インタビューをしたのは東京の中井さんの事務所。意外なことに住宅街で大正時代に建てられたという驚くほど古い平屋建ての日本家屋でした。庭には、樹齢200年を超えるザクロの木が植えられていました。昔ながらの木々が生きる建物を大切にしているのは、まさに五感を大事にする中井さんらしさ、といえるかもしれません。
「普段の生活では、より人間らしくありたいんです。役者というのはカチンコが鳴れば、どんな人間にもなれてしまう。人を殺せと言われたら、本気の演技でそれができる。ある意味、異常な世界ですからね」
一方で、役者というのは経済的にも心理的にも不安定で、吊り橋をいつも渡っているようなものだとも語っていました。
「常に試されているという緊張感もあります。お金もたくさんあったらいいなあとも思います。おいしいものもたくさん食べられるんだろうなと。ただ、お金だけというところにはどうしても行けない。いろんな作品にかけ持ちで出たりすることを、どうしても許せない自分がいるんです」
そして年を取ることについて、こんな話をしていました。
「男がいちばん輝かなければいけないのは、50代や60代だと思ってきたんです。先輩方を見ていても、この年代になってこそ、艶や色気みたいなものが出てくる。むしろ若い頃は地味がいい。年を取ったら派手になる。ネクタイのチョイスみたいな、そんな人生が理想的だと思う」
五感すべてを意識する。年を取るからこそチャレンジする。やんちゃで自分らしく生きる。素敵な年の取り方のヒントを、中井さんから教わりました。