北極圏での山火事が地球温暖化で頻発、それらがさらに地球温暖化を招く

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近年、地球温暖化で北極圏での山火事の発生頻度が高くなっていることが、科学誌『Science』に発表された新しい研究で明らかになった。この傾向は温暖化が進むにつれて悪化すると予想され、二酸化炭素の排出量の増加につながる可能性がある。

研究者らが2019年と2020年の山火事の衛星観測を分析した結果、約470万ヘクタール(約4万7000平方キロメートル)が焼失したことが明らかになった。

2020年だけでもシベリア北極圏で423件の火災が発生し、火災面積はベルギーの国土面積に匹敵する約300万ヘクタール(約3万平方キロメートル)におよんだ。そして二酸化炭素の排出量はスペインで1年間に排出される量とほぼ同じ2億6500万トンだったと、研究著者でスペイン科学研究評議会のアドリア・デスカルスは指摘している。

シベリア北極圏での2019年と2020年の火災は、1982年から2020年までの総焼失面積の半分近く(44%)を占め、近年、山火事が急増していることを示している。北極圏での山火事は、大量の炭素を含んでいる広大な永久凍土層にダメージを加え、これにより炭素排出量を増加させる。

山火事の増加は過去40年間の気温上昇と結びついている。気温上昇は乾燥した気象条件、長い夏、土壌中の利用できる水の量を低下させる植生が増えたことと関連していると研究者は指摘している。

2019年と2020年の極端な火災の多さは「例外的な出来事かもしれない」が「近年の気温の傾向と予測シナリオは、気温が現在のペースで上昇し続ければ、今世紀末までに2019年と2020年に起こったもののような大規模な火災が頻繁に発生することを示している」と研究論文には記されている。

「Science」に3日に掲載されたこの研究についての別の論文で、他の2人の研究者は、山火事の増加がさらなる地球温暖化につながる「フィードバックループ」を生み出していていると指摘している。

米カリフォルニア大学デービス校野生生物・魚類・保全生物学部のエリック・ポストと北アリゾナ大学生物科学部のミシェル・マックは「加速する北極の温暖化は泥炭地の土壌、つまり分解された植物質を含む土壌層を乾燥させ、それが北極でより頻繁に発生している森林火災の一因になっている」と指摘している。このため、温室効果ガスとして多くの二酸化炭素が放出され、地球温暖化をさらに助長することになるという。

過去40年間で最も暑い夏となった2020年には、シベリア北極圏で1982年から2020年までの平均件数の7倍もの火災が発生したことがわかった。こうした火災により「これまでにない広さの泥炭地」が被害を受けたという。

北極圏の永久凍土は1兆7000億トン近くの炭素を蓄えている。

気候変動がエスカレートするにつれて北極は急速に温暖化しており、19世紀後半から年平均気温が2度以上も上昇している。2100年には、1985年から2014年までの平均気温を3.3〜10度ほど上回ると予想されている。また、8月に発表された研究では北極は過去43年間に世界の他の地域の約4倍の速さで温暖化したことが明らかになっている。

北極圏では山火事が生態系の一部として自然に発生しているが、気温の上昇によりその規模や頻度、激しさが増している。これまでの研究で、アラスカのツンドラ地帯の焼失面積は今世紀末までに1950年から2010年にかけて焼失した面積の2倍になる可能性があるとされている。

科学者たちは、気温の上昇にともない異常気象がより頻繁に起こるようになると警告し、二酸化炭素の排出量を抑制し気温上昇を抑えるために思い切った行動を取るよう促している。2022年夏は米国をはじめ世界各地で記録的な熱波や洪水、干ばつ、山火事などの異常気象が相次いだ。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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