この補聴器は、オンライン、薬局や小売店の店頭で販売される予定だ。これにより、コスト面だけでなく、より便利な方法で、補聴器にアクセスできるようになる。
バイデン政権は、この目的を「補聴器技術市場における革新と競争を促進しながら、OTC補聴器(Over The Counterの略で処方箋なしで購入できる医薬品、医療機器)の安全性と有効性を保証すること」としている。
OTCの規制は、医療専門家や消費者擁護団体からの何年にもわたるプレッシャーの結果である。
注目すべきは、聴力に問題のある米国人のうち、補聴器を使用しているのはわずか20%程度であるということだ。補聴器のアクセスを拡大することで、米国では約3000万人の成人が恩恵を受けると推定されている。
現在、補聴器とそれに付随するフィッティングサービスには5000ドル以上(約74万円)の費用がかかることがある。また、保険が適用される範囲は非常に限られている。例えば、メディケアは補聴器ではなく、補聴器診断の費用しか負担しない。
今回の方針転換により、軽度から中等度の難聴を抱える何百万人もの米国人が、補聴器購入を改善し、費用を削減できることは間違いない。一般的に、処方箋が必要な製品がOTCに切り替わると、価格は下がる。補聴器の場合、OTCに移行することで一組あたり2800ドル(約41万円)のコスト削減が期待できる。
興味深いことに、Sony(ソニー)とWS Audiology Denmark(ダブリューエス・オージオロジー・デンマーク)は、米国市場をターゲットにしたOTCセルフフィッティング補聴器を開発している。
この新しい政策により、一部の人は補聴器にアクセスしやすくなったが、OTC補聴器は大きな問題に対する十分な解決ではない。
まず、より重度の難聴のために設計された補聴器にはOTCのステータスは適用されず、処方箋が必要なことに変わりはない。
そして、OCT補聴器の購入を検討している人が、その必要性をどのように認識するのかという問題がある。また、補聴器に必要な設定を、専門家による評価なしにどうやって知ることができるのだろうか。
そして、多くの人にとっての障壁となるのは、コストという問題である。OTC補聴器は、一組の価格が2000ドル(約29万円)をはるかに超える。これは、補聴器を必要とする人の大半、つまり社会保障や退職金で暮らしている高齢者にとっては、かなりの出費となる。
他の裕福で産業化された先進国では、基本的な補聴器をほぼ100%負担している。米国連邦政府も定期的に同じことを検討してきた。しかし、予算の制約やその他の政治的圧力により、補聴器がメディケアプログラムに含まれることを阻んできた。
2021年、バイデン政権は「Build Back Better(ビルド・バック・ベター)」構想の一環として、補聴器をパッケージに追加してメディケアを強化することを検討した。これは確かに理にかなっている。しかし、財布の紐を握っているのは議会だ。もし、この条項が今夏に提案されたインフレ抑制法に含まれていたら、コスト増が原因で、最終的に同法の成立に貢献した中道派の民主党議員の反乱を引き起こした可能性がある。
要するに、有益ではあるが、補聴器のOTC化は購入しづらいという問題を包括的に解決するものではない。
(forbes.com 原文)