注目すべきは、コロナ禍で鍋をするときの「あり」「なし」行為について。「あり」な行為では「一人鍋」がトップとなった。鍋も個食が一般化してしまったようだ。2位が「鍋をおかずに白米を食べる」。これも、みんなでお酒を飲みながらダラダラ楽しむというより、鍋も1人で黙々と食べるご飯の「おかず」という感覚に変化したためか。5位には「複数人で食べる場合でも一人鍋にする」が入った。これはもう、いわゆる「鍋」というよりは、鍋焼きうどんのような一人前の料理という認識だろうか。もう、複数人で突っつき合って食べるものという日本の伝統的な認識が崩壊している。
面白いのは「なし」な行為。トップは「一回とった具や汁を鍋に戻す」だ。コロナじゃなくてもナシだろー! と思う人も多いだろう。でも地方によっては、お汁を鍋に戻すお作法のところもあるから、まったくナシとは言えない。Jタウンネットが2019年に行った調査では、鍋の汁を戻す派は、「戻す」と「外では戻さないが家では戻す」が合わせて16.7パーセントと意外に多かった。
「なし」行為の3位と4位は、「肉しか入れない」と「肉以外しか入れない」だ。裏を返せば、「肉ばっかり入れてんじゃねーよ」と「肉も少しは入れろよ」ってことだ。そのほかの「なし」行為にある「逆さ箸」や「直箸」は衛生上の問題だと思われるが、肉については一人鍋のやり過ぎで人がワガママになっちゃった影響とも邪推される。
鍋はいろんな具材が入っているからおいしくなるものだ。ハンペンが大好きだかららって、ハンペンだけでおでんを作っても、ぜんぜんおでんの味にはならない。あまり好きじゃないものも含めていろいろ入って大量に作るからこそ、あの深い味が出るわけで。とは言え、コロナじゃなくても赤の他人と同じ鍋を突きたいという衝動に駆られる人は少ないだろうし、外国人には鍋の習慣に拒否感を示す人も多い。温かくて楽しい鍋だけど、こうして見ると、けっこう心理的に複雑なシステムだったんだね。明日の日本の鍋文化の落とし所は、どこだ?
文 = 金井哲夫