青年空手家がオランダに移住 コロナ禍に始めた「道場」はいま


「どこの道場でも共通した教えかとは思いますが、成拳空手道場では『自ら考えて行動すること』『目標に向かって努力する姿勢』『自立心』『強くてたくましい心』を大切にしています。

また、心を鍛えることはもちろん大切ですが、まずは身体を鍛えることが大切だと私は考えています。身体を鍛えることで自信が生まれ、やる気も出ます。身体を鍛える過程でおのずと心も強くなっていくでしょう」



オランダ人からすると空手は「外国のスポーツ」だ。しかし教えるうえでは、「日本と大きな違いはない」と松澤氏は言う。

「大前提として文化や価値観の違いに配慮する必要はありますが、最も重要なことは、一人一人が壁を乗り越えること。しんどいなと思うことを乗り越えたところに、達成感や人としての成長があるのではないでしょうか。これは大人も子供も同じです。そして国籍も関係ないと考えています」

松澤氏自身も、空手を通して成長し、さまざまな人と触れ合ってきた。オランダ移住を決めた理由の一つも、視野を広めて人として成長するためだという。

「幼い頃から学んできた空手で、国際交流ができるのは大きな魅力です。最近では、オランダ国内の他道場に講師として呼んでいただけるようになりました。

空手は日本を飛び出し、グローバル化しています。武道が世界に広まることは誇らしく嬉しいですが、失ってはいけない精神性があると思います。それは、日本人がずっと大事にしてきた、相手を思いやる心や美学みたいなもので、ともすれば日本人自身も忘れてしまいがちなことではないでしょうか」

空手には「組手」と美しさを競う「形」がある。ヨーロッパの空手家は、競技として空手を楽しんでいる人もいれば、演舞の美しさに惹かれる人もいる。文化として評価され、受け入れられているからだろう。



欧州ではもう1年以上前からマスクをしない人が増え、街はコロナ前に戻りつつある。コロナ禍でスタートした成拳空手道場もさらに会員が増加し、「ゆくゆくは100人規模の大きな道場にしていきたい」と松澤氏は展望を語る。また、他道場・他国への講師としての依頼も広く受け入れ、道場として試合にも参加していくつもりだという。

トップレベルで空手を学んできた日本人が、ヨーロッパでその経験や技術を伝えていく。それは、対外国人にだけではなく、日本を離れて暮らす日本人にとっても意義のあることだ。海外で空手を通して交流をすることで、競技としてだけではなく、改めて文化としての空手を見つめ直すことにつながるのではないだろうか。

文=佐藤まり子

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