開催国のオランダや隣国ドイツ、ベルギーの他、イギリスやノルウェー、アイルランドなど参加者の国籍は19カ国。剣道には「交剣知愛」という言葉があるが、稽古をするだけではなく、剣を通じた交流もその楽しみといえる。年齢や段位、国の制限もなく、興味があれば子供も参加できる。
ノルウェー剣道代表の女性選手は、「オランダはヨーロッパ人にとって比較的アクセスが良い場所。コロナ後初めて日本から先生方がくるので、楽しみにしていました。一流の先生方に直接指導していただける点は大きな魅力です」と言う。
「高段者の先生やヨーロッパ各地から集まった剣道家と時間を過ごすことは、上達への何よりの近道。また、新しい剣道仲間を作る素晴らしい機会でもあります」と話すのは、オーストリア剣道代表の男性選手だ。
ヨーロッパは陸続きのため、国際試合や稽古会なども盛んに行われる。参加者たちは仲が良く、セミナー終了後は自国から持ってきた「小さな贈り物」を交換しあっていた。筆者は、アイルランド剣士からミニウイスキーをいただいた。
なぜセミナーは20年も続いているのか
このセミナーが20年以上、多くの参加者を集め続けているのはなぜなのか。
まず第一に、剣道や日本文化に対する並々ならない情熱や興味があげられる。参加者のなかには、自作した剣道具を持参した剣士もいた。本業は音楽家で、ウィーンの音楽大学で教授として働いている。剣道を深く学ぶため、本セミナーだけではなく、日本を訪れ大阪体育大学で稽古をした経験もあるという。
参加者たちに共通しているのは、最初は憧れや軽い気持ちで始めたとしても、だんだん「武道はほかのスポーツと何かが違う」と気づき、その深みにハマっていくところだ。
元オランダ剣道代表は、「友達に誘われて剣道を始めて、いまは自分の内面の成長のために続けています。稽古を重ねて成長すること。道場での教えを日常でも生かすこと。礼節を尊んで人間関係を築くこと。もちろん身体を鍛えることも大切です。でも一番は、自己成長のために剣道を続けています」と語る。別のオランダ人剣士は、剣道コミュニティについて「他のスポーツの人たちにはない、優しさや倫理観がある」とその魅力を話す。
こうした姿を見て、「日本人以上に真剣に武道を学んでいる」と驚く日本人も少なくない。海外剣士たちは競技(スポーツ)として剣道を楽しむ一方で、その精神性・文化性にも魅せられているのだ。
筆者が知り合ったヨーロッパの剣士たちは、とてもフランクで、わからないことは遠慮せずにどんどん質問する。大きな試合の後にはパーティが開かれ、楽しそうにダンスを踊る。こうした点は、日本ではなかなか見られない、日本とは違う楽しみ方だ。
一流の講師のもと、仲間たちと交流を楽しみ、自己成長と向き合う剣道漬けの3日間。「また来年も会おう」。そう言って参加者たちは各々の国へ帰っていった。