まずは比較的短く、軽妙な作品を紹介させていただこう。
殺虫剤
ユーモラスなレビューが多く集まりやすい商品がある。殺虫剤だ。
ただし、一つだけ注意していただきたい。大抵の場合、殺虫剤のレビュー欄には、その効果を証明するためと思われる写真、つまり昆虫の死骸の写真が掲載されている。あくまでも善意によるものであるはずだが、虫など視界に入れたくもない人はくれぐれも慎重に探索してほしい。
さて、憎き天敵を瞬時に退治してくれる殺虫剤は、私たちにとって必需品だ。レビュー欄では、その凄まじい威力を実感した購入者たちが歓喜の声をあげている(一方で、効かなかったことへの怨嗟の声もあるのだが)。
以下は『【防除用医薬部外品】ゴキジェットプロ ゴキブリ用殺虫スプレー [450mL]』に投稿されている作品である。
『エイリアンの出現に怯える同胞よ、この武器を手にしたら恐れることはない!二、三秒も噴射すれば奴らはイチコロだ。ただし、こちらへ飛行してきた時だけは別だ。全力でかわして反撃の時を待て。武運を祈る!』
レビューのタイトルが『人間様にたてつくとこうだ!』と妙にハイテンションであるのも味わい深い。「奴ら」との戦いに勝利して快哉を叫ぶ作者が目に浮かぶようだ。
他方で、同商品にはバッドエンドで終わる作品もある。例えば、以下のように。
『奴が出てきてパニック。
シュッと一吹きで瞬殺。
だが遺骸がその噴出圧で吹っ飛んで、どこかに行き更にパニック。』
状況を容易に想像できてしまううえ、「明日は我が身」と思わせる説得力があり、下手なホラーよりも恐ろしい。
殺虫剤のレビュー欄は、アマゾンレビュー文学にしては珍しく、スラップスティック(ドタバタ喜劇)と呼んで差し支えない、エンタメ性に富んだ作品が揃っている。繰り返すが、虫の写真にはくれぐれもご注意を。
「これほどのレビューを書かせる小説とは、どのようなものだろう?」
次はいくらかシリアスなレビュー文学、それも、純文学小説から派生して誕生したレビュー文学を紹介する。
今年七月、第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子氏の小説『おいしいごはんが食べられますように』のレビュー欄には情感が込められた、迫力ある作品が投稿されている。以下一部を抜粋させていただく。
『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子著、2022年3月、講談社刊)
『子育て、発達障害、病気や鬱など何らかの理由職場に融通きかせてもらって、表向きはやさしくされつつも裏でヒソヒソ言われていたのに気づいていた……そんな経験がトラウマになっている人、きつい表現があるので覚悟してから読んだ方がいいです。
(中略)
嫌われてる、居ないほうがいいってわかってるけど、お金がないと生きていけないんです。迷惑かけてでもごめんなさいごめんなさいってあやまって、気が利かなくて天然と言われ、卑屈になってせめてなにかできることはないかとから回って、また嘲笑されて、生きていくしかないんです。』
『おいしいごはんが食べられますように』は筆者も読了している。決して愉快な物語ではないが、だからこそ興味深い気付きがいくつもある小説だ。巷間でささやかれる「生きづらさ」を独自の視点、感性で捉えたストーリーに対して、このような、悲痛な祈りとも呼べるレビュー文学が生まれるのも納得できる。「これほどのレビューを書かせる小説とは、どのようなものだろう?」と気になった方もいるはずだ。私的な思いを吐露していながら、同時に商品への興味を喚起する、レビュー本来の役割を果たしている作品だといえるだろう。