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2022.10.08 17:00

「その新型風邪は人為的ウイルスじゃないか?」 生物兵器は貧者の核兵器


ウクライナ情勢の複雑さは「日本人の想像を超えている」


手嶋:ウクライナの実情は、島国の日本から見ているより、はるかに込み入っています。歴史的な経緯も考慮して、長期的な解決策を考えてみることも必要ですね。

佐藤:実は『国民の僕』で、解体されたウクライナが描かれているんですよ。

手嶋:ゼレンスキー大統領がコメディアン時代に主演したテレビドラマですね。このドラマによって彼は大統領への道を駆け上がっていきました。

佐藤:そうです。ぜひ見ていただきたいのが、第3シーズンです。大統領になったゼレンスキーが扮するゴロボロジコは不正選挙で投獄されてしまう。その間にウクライナが28カ国に分裂してしまう。そんな状況にゴロボロジコが再び登場してウクライナを統合する。しかし最後の最後まで、ドンバス地方とガリッツィア地方がいがみ合って対立を続ける。

手嶋:佐藤さんのように、長年あの地域を見続けた人ですら、内情が"複雑怪奇"に映るのですからかなりのものですね。

佐藤:ウクライナがひとつの国にまとまっていることが不思議なほど情勢は込み入っています。

手嶋:だからこそ、歴史的な文脈を踏まえて、情勢を読んでいくしかない。

佐藤:その意味でも『武漢コンフィデンシャル』のような視点が重要になってくるのです。『武漢コンフィデンシャル』では、中国やアメリカのような大国が辿ってきた歴史、その固有な考え方、内在的な論理が、冷徹に描かれています。また、生物化学兵器の歴史などもきちんとおさえている。それをウクライナとロシアが対峙する情勢に置き換えて考えてみれば、日々のニュースで報じられた出来事の背景がよりはっきりと見えてくる。まさしくインテリジェンスの感覚を磨き、インテリジェンスを武器として現下の情勢を読むとはこのことなのです。

手嶋:佐藤優さんは、ウクライナの歴史に精通していますが、それを頼りに現下の情勢がどう推移するのか、単純に予測しているわけではありません。歴史は必ずしも繰り返しませんから。新たなファクターがない混ぜになって現代史がつくり出されるのですから。自分たちが21世紀のいまを生きている。そんな感覚を持たなければ、歴史と現代史のつながりは見えてきません。

佐藤:そう思います。論理的につなぎ合わせていっても、歴史は読み解けない。各国の歴史を類比的に見ていくことで、共通性や差異に気がつける。新型コロナ・ウイルスの感染が拡大し、ロシアのウクライナ侵攻で時代が大きく動き出したいまこそ、歴史を知らなければならない。その点でも、ワシントンD.C.、武漢、雲南、香港、魔の三角地帯、東京、メルボルン、タスマニアと経めぐって、異なる地域と視点から、現下の情勢を読み解いた『武漢コンフィデンシャル』は、天下大いに乱れる時代の嚆矢とも言える物語だと思います。



手嶋龍一(てしま・りゅういち)◎作家・外交ジャーナリスト。NHKワシントン支局長として9・11同時多発テロに遭遇し、11日間の連続中継を担当。NHKから独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』、続編の『スギハラ・ダラー』がベストセラーに。同シリーズ・スピンオフに『鳴かずのカッコウ』、最新刊が『武漢コンフィデンシャル』。ノンフィクション作品も『汝の名はスパイ、裏切り者あるいは詐欺師』『ブラック・スワン降臨』など多数。

佐藤優(さとう・まさる)◎1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省に入省。在イギリス大使館勤務、在ロシア大使館勤務を経て、外務省国際情報局で主任分析官として活躍。主な著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞)など。最新刊に『危機の読書』。


武漢コンフィデンシャル』(手嶋 龍一著、2022年7月、小学館刊)


危機の読書』(佐藤優著、2022年9月、小学館新書)


本対談記事は、ラジオNIKKEI「大人のラヂオ」(8月19日)に放送された両氏の対談を元に加筆・修正したものである。

番組詳細はこちら:https://www.radionikkei.jp/otona/202219.html

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