ウクライナ戦争に至る「バイデン政権のインテリジェンス」は何点?
手嶋:バイデン政権は、大変に深刻なミスを犯したと指摘せざるをえませんね。ウクライナ戦争に至るバイデン政権のインテリジェンスを評価しろと言われれば、及第点は到底やれません。インテリジェンスの失敗例として後世の指弾を浴びるはず。プーチン政権の中枢から機密情報を入手し、インテリジェンス世界の掟に反して公表しながら、プーチンの戦争を抑止できなかったのですから。佐藤さんは、今後のウクライナ情勢をどのように読んでいますか?
佐藤:私は、ウクライナ戦争はアメリカによって"管理された戦争"だと受けて止めています。侵攻の抑止に失敗したアメリカにとって、最優先事項はロシアと直接ぶつかることを避けること。そうした前提のもと、ウクライナへの支援を続けて戦闘を継続する能力を維持させる。この条件では、絶対にウクライナの勝利はあり得ない。
加えて最初に設定したウクライナの目標が高すぎた。ウクライナはルハンスク州とドネツク州のロシアが実効支配する地域からのみならず、2014年にロシアが併合したクリミアからもロシアを追い出そうと考えていた。しかしロシアの攻勢が強く目標達成が困難になった。
手嶋:佐藤さんが指摘するように、アメリカのバイデン政権は、ウクライナがNATOに加盟していないという建前を前面に押し出し、後方支援を続けるいわば"間接戦争"をもう半年以上も続けています。じつは、アメリカという国は、こうした間接な戦争をあまり戦った経験がありません。朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争とその多くは"直接戦争"なのです。
バイデン大統領は『ニューヨークタイムズ』に自分の名で特別に寄稿し「アメリカ政府として、ゼレンスキー政権にロシアへの領土の割譲は求めない」と述べています。文字通りに受け取れば、ウクライナ侵攻前にロシアが実効支配をしていたクリミア半島、ルハンスク州とドネツク州を含むドンバス地方の一部地域もすべて奪還するまで戦うことを容認し、支援すると読めます。これでは、ロシアとウクライナが停戦し、和平交渉に入って、妥協点を見いだすことは極めて難しくなってしまいます。トルコの仲介工作が実を結んでいないのも頷けます。
佐藤:双方が落とし所を探してはいますが、結局は"戦局がすべてを決める"のです。その意味で最悪の結末で終わる危険性すらあります。プーチンはウクライナの非ナチ化を主張しているでしょう。いま私が危惧するのが、ウクライナのナチ化が戦局になにをもたらすのか、ということなのです。
ウクライナの英雄にステパン・バンデラという人物がいます。バンデラの指導下にある武装集団は、第2次大戦中、ナチス・ドイツ軍の指揮下に入り、ソ連からウクライナの独立を図ろうとしました。しかし、ナチスはウクライナ独立の約束を守らなかった。ウクライナ独立を勝手に宣言したバンデラは、ナチスに逮捕されました。さらにバンデラは、ユダヤ人だけでなく、ロシア人、ウクライナ人、ローマ人、スロバキア人らの虐殺にも関与したのでした。