ウクライナ戦争終結後、兵器は闇市場に? インテリジェンスは世界をどう見るか

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「リヴィウ」こそウクライナ情勢を理解する鍵


佐藤:手嶋さんはリヴィウに早い段階で注目されていましたね。いま広まっているウクライナの歴史は、実証的な歴史学には耐えられない、リヴィウがあるガリッツィア地方の民族主義者をもとにしたウクライナ版の皇国史観と呼べるような代物です。

手嶋:2014年のクリミア併合時にウクライナを訪れて、長期間滞在して取材を試みました。その時点で、リヴィウこそあの地域の動きを理解する鍵になるだろうと直感しました。そこで、佐藤さんにもガリツィア地方の込み入った歴史や地政学について教えていただきました。

ウクライナが東アジアの政局を考える上で、どれほど重要なエリアなのか。『ウルトラ・ダラー』は、北朝鮮の偽札事件を扱った物語と考えられがちです。ただ著者の立場からすると、偽札を使って何をしようとしていたのかが核心でした。北の独裁者は、中国の手を借りて、旧ソ連の兵器廠だったウクライナからミサイル技術、とりわけ巡行ミサイルの現物と武器技術をせしめた。

佐藤:そう。『ウルトラ・ダラー』は現在のウクライナ情勢を理解する重要な補助線になっています。いままさにヨーロッパで危惧されているのが、ウクライナの兵器管理です。フランス当局者の話では、今後ウクライナ軍のジャベリンで武装した強盗が出てくる恐れがあるという。またウクライナ戦争が終結すれば、闇市場への兵器の流出が不安視されている。いえ、すでに流出したという報道もある。

手嶋:ミサイル兵器の流出ならトレースできるかもしれません。さらに大きな問題は佐藤さんが再三指摘されている生物化学兵器です。

佐藤:そこですね。ウクライナは生物兵器抑止のために研究していたのか、あるいは生物兵器そのものを開発していたのか。ウクライナを中国に置き換えれば、まさに『武漢コンフィデンシャル』の肝となる部分ですね。


手嶋龍一(てしま・りゅういち)◎作家・外交ジャーナリスト。NHKワシントン支局長として9・11同時多発テロに遭遇し、11日間の連続中継を担当。NHKから独立後に発表した『ウルトラ・ダラー』、続編の『スギハラ・ダラー』がベストセラーに。同シリーズ・スピンオフに『鳴かずのカッコウ』、最新刊が『武漢コンフィデンシャル』。ノンフィクション作品も『汝の名はスパイ、裏切り者あるいは詐欺師』『ブラック・スワン降臨』など多数。

佐藤優(さとう・まさる)◎1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省に入省。在イギリス大使館勤務、在ロシア大使館勤務を経て、外務省国際情報局で主任分析官として活躍。主な著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞)など。最新刊に『危機の読書』。


武漢コンフィデンシャル』(手嶋 龍一著、2022年7月、小学館刊)


危機の読書』(佐藤優著、2022年9月、小学館新書)

本対談記事は、ラジオNIKKEI「大人のラヂオ」(8月19日)で放送された両氏の対談を元に加筆・修正したものである。

番組詳細はこちら:https://www.radionikkei.jp/otona/202219.html

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