CBDCを本格的に導入している国は、現状ではバハマやジャマイカ、ナイジェリアなど世界で数カ国にとどまる。国際決済銀行(BIS)によると、これまでにさらに26前後の中銀が実証実験を行っているほか、大半の中銀が少なくとも調査や検討は進めているという。
ほとんどの国にとって、CBDCを導入する最大の目的は国際取引の効率化にある。イランの場合、核開発問題をめぐり国際的な制裁を受けているだけに、それには特別な意味がある。
イランはかねて、米国による経済制裁の影響を軽減するため、米ドルへの依存度を引き下げる方策を模索してきた。8月には国際取引で暗号資産(仮想通貨)による決済を試験的に実施し、1000万ドル(約14億5000万円)相当の取引を行っている。
CBDCの試験導入は、こうしたデジタル通貨の実験をさらに一歩進めた形だ。
ビットコインやイーサリアムのような民間で発行される仮想通貨と違って、CBDCは国の金融機関である中央銀行によって発行される。そのため、この1年も乱高下している仮想通貨と異なり、国の法定通貨以上の変動はしない仕組みになっている。
監視体制の強化に使われる懸念も
イラン人にとって、仮想通貨は馴染みの薄いものではない。それどころか、仮想通貨のマイニング(採掘)が活発になりすぎて電力需給が逼迫する事態も起きており、広範囲の停電を招いたこともある。
CBDCの試験導入は今年1月に発表されていた。イラン中銀のアリー・サーレハアーバーディー総裁によると、「限られた人数の人」に、イランの大手金融機関であるメリ銀行とメラト銀行から10億トマン(約4500万円)分のCBDCがこのほど提供され、使用可能店舗として2店が指定された。
ただ、実験の詳細はほとんど公表されておらず、参加している人やその数、支払い可能額などは不明だ。
ラムズリヤルは基本的にリヤル紙幣のデジタル版として機能する。一方、ほかのデジタル製品と同じように、取引は当局によって容易に追跡される。イランでは最近、スカーフのかぶり方が不適切だったとして警察に拘束された女性が死亡した事件を機に、抗議デモが広がったことからもうかがえるように、政府に対する不信感や憤りを募らせている国民は少なくない。こうした状況ではラムズリヤルの普及は難しいかもしれない。おそらく多くの国民は、国による広範な監視の一部となるようなツールは避けようとするからだ。
湾岸諸国でCBDCを試験導入した国はイランが最初ではないが、銀行間の送金に制限される「ホールセール型」でなく、個人などが決済に利用できる「リテール型」を導入したのはイランが初とみられる。
2019年には、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の中央銀行が、越境取引に向けた共同CBDCの実現可能性をテストするため、「アバー」というプロジェクトを立ち上げた。実験は成功したとしているが、その後より広範なフォローアップ事業は発表されていない。
UAEはさらに2021年、中国、香港、タイの中央銀行と共同で「mブリッジ」という別のCBDC実証実験にも参加している。
ほかの湾岸諸国はCBDCに対してもっと慎重ではあるものの、いずれも関心は示している。
(forbes.com 原文)