ガタガタ揺れる道中、パイプにつかまりながら、物珍しげに車内を見回した。「パワーウィンドーになっていないのは、戦闘で壊れることを前提にしているから、できるだけ手動にしているのかな」などと考えた。運転席の方に視線を移すと、カーラジオとエアコンのスイッチが見えた。「災害派遣に備えてラジオを装備しているのかな」「厳しい戦闘条件を考えて、エアコンもつけたのかな」などと考えながら取材をした。
帰京して自衛隊の関係者にこの話をすると、大笑いされた。関係者は「隊員のためを考えたんじゃなくて、その方が安かったからですよ」と言う。防衛省・自衛隊がパジェロを原型に自衛隊用のジープの生産を依頼した。そのときは、予算の問題があり、「カーラジオとエアコンは外してください」という話を持っていったという。
ただ、よく知られているように、日本では防衛産業は儲からない。長い間、武器輸出3原則のため、海外マーケットが存在せず、「顧客は自衛隊だけ」という状態が続いたからだ。民間企業には、防衛装備品を大量に生産するラインがない。パジェロも同様だ。企業側は「ラジオとエアコンを外すとなると、生産ラインを新しく1本つくらないないといけませんね。そうすると、逆に価格が上がりますけれど、よろしいですか」と回答した。防衛省・自衛隊は「いやいや、そういうことでしたら、ラジオ・エアコン付きでお願いします」とお願いし直すことになったという。