オリンピック直前の起業には「スポーツに集中すべき」という反対意見もあったし、チームで初めての「兼業」選手だった。それでも、現役選手として注目されているときこそ課題解決に挑戦するべきだと、周囲を説得した。いまの目標はIPOだが、その先にはもっと大きな野望がある。「将来は自分のルーツがあるアフリカで、新しい産業をつくるスタートアップをやりたい」と目を輝かせる。
小学生の時はいじめで悩んだ。母に「なぜみんなと同じにしてくれなかったの」と泣きついたこともあった。その時、母から「違うことが魅力的だと思われる人になりなさい」と言われ、「解放された」という。「まずはやってみていい。そういうマインドになれた。選手になっても違うことばかりしている。そういう自分が大好き」。
プレイスタイルも「みんなと同じことはしない」を徹底して考える。周りがスリーポイントを狙うなか、隙をついてドリブルで切り込み、インサイドでアタックする。違いを生かしたプレイで日本代表にも選ばれた。ビジネスでも差別化を常に考えている。
休養後にチームや日本代表に復帰できる保証はない。正直、不安や怖さもある。「座右の銘は『why not』。やっちゃいけない理由がないなら、試しにやってみる。ダメならまた頑張ればいい。また頑張れる自信はあるんです。その先にはやった人にしか見えない景色がある。社長も実際に始めたら、『現役選手でもできるんだ』という反応に変わりました。『自分もやりたい』と言ってくれる人もいて、型にはまらない選手のムーブメントが起きたら面白いですよね」。
このほか、Forbes JAPAN 2022 年9月24日発売号では、新しい時代、自分らしい新しい成功の形を模索する人たちと、東西の有識者たちに取材。詳しくはこちら。
馬瓜エブリン◎1995年、愛知県生まれ。両親はガーナ出身。小学生でバスケを始め、桜花学園高校で高校三冠。2014年に現アイシンに加入、17年にトヨタ自動車アンテロープスに移籍。Wリーグで2連勝。東京五輪銀メダリスト。