ハワイ旅行のハードルがかなり低くなり、実際、9月に入ってからワイキキの街やハワイ最大のショッピングモール「アラモアナセンター」で日本人観光客の姿を見かけることも多くなった。
日本人観光客の姿を見かける機会も増えてきた(撮影:岩瀬英介)
ただ、ハワイの医療界にとってはどうか。ある医療関係者がこんなふうに嘆いた。
「いつかは終わると思っていたが、急に終わりが来た感じだ。日本帰国時のPCR検査はハワイの医療界にとって大きなビジネスオポチュニティー。この大きなムーブメントはバブルと言って良かった。これまでにない、かなりの利益をもたらした。
しかし、それも終わり。今回の規制変更で日本人のPCR検査市場は大きく縮小してしまった。帰国前のPCR検査に訪れる客は、クリニックによっては10分の1まで減少したところもある」
今回の水際対策緩和が実施される前は、ハワイを訪れた日本人は、日本帰国時には搭乗72時間前に受けたPCR検査の陰性証明書の提示が義務付けられていた。そのため、全員が旅程の中に「PCR検査」という予定を組み込む必要があり、ハワイの各クリニックは「日本語対応」「厚労省指定フォーム対応」などと謳って、日本人観光客の検査需要を取り込もうとやっきになっていた。
この夏には日本からハワイへの1日の到着人数が1000人を超えた日も多くあり、1つの検査場(クリニック)に1日300人近くが殺到する日もあった。ハワイの医療体制が、日本人のPCR検査需要に対応できておらず、検査場を出せば人が来る、まさに「PCR検査バブル」となっていたわけだ。
他業種も積極参入の「魅力的利益率」
ハワイでのPCR検査の仕組みはこうだ。「よし、うちのクリニックでもPCR検査をやろう」となったら、米国本土のメーカーからPCR検査の検査装置を購入する。この装置自体が数千ドルするのだが、メーカーによっては実質無料で貸し出すところもあるそうだ。
メーカー側にとっては、いわばコピー機と同じビジネスモデルで、使用する側は検査装置を導入しても、毎回検査するごとに検査キットを購入する必要があり、検査する毎にメーカーへの支払いが発生する。コピー機のリース料が格安でもコピーの枚数によって料金が加算され、さらにトナーを購入することでメーカーのビジネスとなっているのと同じ構図だ。
なので、PCR検査市場に参入しようというクリニックは、これだけの検査はするだろうという回数を見込んでメーカーと契約して検査装置を導入する。医師と言ってもクリニックを開業していればれっきとした経営者。この回数を決めるときは「かなり思い切りが必要だった」と語る医師もいた。
検査自体は、装置があって操作方法を研修した医師(もしくは技師)がいれば、クリニック内で完結できる。検査から結果が出るまでの時間は、さばく人数や関わるスタッフの数によって変動するそうで、ハワイの場合は早い結果を求める場合は費用を高く設定するクリニックが多かった。検査が始まった当初は300ドル以上の料金設定も見られたが、昨今はだいたい150ドルから180ドル程度が相場だった。
検査にかかる原価は機器にもよるそうだが、検査1回あたり数十ドルという場合もあり、1日数百人が殺到すると思えば、たしかに大きなビジネスチャンスだ。