相馬先生は意を決して、2021年の8月、ワイキキに「相馬クリニック」を開設した。
「相馬クリニック」の相馬洋一先生
「ワイキキで、観光客が来やすい場所はどこかと探して、ドラッグストアの『ロングスドラッグス』の横にある物件に目を付けました。1階にあって目立つ場所で、何よりロングスの店内からよく見える立地が良かった(笑)。
ワイキキの一等地での家賃は高かったのですが、PCR検査という業務を看板にすることで医療界に共通する開院当初の患者不足という悩みに陥ることはなかった。開院した途端に検査を受ける日本人観光客が殺到しました」
同時期に、在住日本人にはお馴染みの日本語の通じる医療機関「聖ルカクリニック」もワイキキに新クリニックを開設した。観光客の利便性を考えてワイキキでの展開を考えていたものの躊躇していたクリニックが、このPCR検査というビジネスチャンスを受けて、新たに開院に踏み切ったところも多いと思われる。コロナ禍の経済打撃でワイキキの利便性の高い物件に空きが出ていたことも後押しとなった。相馬先生が続ける。
「とはいえ、家賃や人件費を考えれば、いかに効率よく検査をこなすかが重要となります。予約から検体採取、証明書発行まで、大人数が殺到してもスムーズに対応できるシステムを構築しました。問い合わせや質問も多く、私もスタッフも文字通り寝る間も惜しんで対応して信用に繋げました。それが予約数に直結します。また当院は検査場であると共にクリニックですので、陽性が出た場合の診療にもしっかり取り組みました。日本帰国前に陽性になっても、しっかり治療が受けられ帰国に必要な書類も揃う。そんな安心できる環境をハワイでつくるのが私の目標でした」
相馬先生がワイキキに出した「相馬クリニック」(2155 Kalakaua Ave. TEL808-358-2182 日本語OKだ)
ハワイの場合、日本と異なり、検査をしたからと言って政府から補助金などが医療機関に支払われるとは限らない。政府から補助金が下りて、ハワイ在住者に向けて無料検査を実施した医療機関もあったが、それはあくまで一部だったそうだ。
「そうした事情もあり、このPCR検査をビジネスチャンスととらえた医療関係者は多いと思います。結果として、この検査バブルのおかげでワイキキにクリニックが増えて観光客には利便性が増しましたし、私のように新たな一歩を踏み出せた医療関係者もいます。バブルというと聞こえは悪いですが、ハワイにとっては良い影響ばかりだったと思います。
ただ、現場は大変でした。空港で検査していないことが発覚して緊急検査を依頼されたり、集団感染したグループを旅行会社から任されたり。各所への提出書類も多岐に渡りました。当院はワイキキでは後発でしたので、他との差別化を工夫しましたが、結局は原点に戻ってお客様の不安をいかに解消するか、そんなサービスに集中しました。コロナ禍でも多くの人にハワイに来てほしい、不安なくハワイを楽しんでほしいと、できることは何でもやりました。
この検査需要での利益をハワイの医療界は、今後のハワイ観光復興のために投資すべきです。私自身も、引き続き観光客が安心安全と思えるハワイにするため、人材育成とクリニック設備に投資して、あらゆるニーズに対応できる組織を作っていきたいと思っています。
逆に、入国時の検査をなくして日本は大丈夫かと心配になります。ワクチンを何回打っても感染はしますし、航空機に乗るなら抗原検査くらいはしたほうがいい。陽性になった際の診療やケアも大切。もしハワイで検査を受けるなら、この点をおろそかにしないクリニックを選んでほしいですね」
日本の政府方針によってもたらされたハワイの「PCR検査バブル」。その方針転換によってはかなく終焉となったが、ハワイの医療界にとっては大きな転換点となったようだ。このバブルがハワイに与えた経済効果を検査すれば、間違いなく「陽性」であったろうと筆者は信じている。