VCのダイバーシティと投資効果の関係
ここでベンチャーキャピタルのダイバーシティが投資パフォーマンスに与える影響を見てみよう。
2018年にハーバード・ビジネス・スクールが26年間にわたるアメリカのベンチャー投資データ(1990~2016年)をもとに行った研究によると、女性パートナーの採用が10%多いベンチャーキャピタルでは、ファンドリターンが1.5%高く、高収益のエグジットが9.7%多いなど投資効果が高い。
またVCファンドのリターンの中央値が14〜15%だったのに対して、女性パートナーのいるファンドのリターンは16〜17%である。
この要因として考えられるのは、第1に女性がパートナーになるハードルは高いため、実際にパートナーとなった女性が極めて優秀だったこと。第2に、女性ベンチャーキャピタリストは男性が見落としがちな機会に対してもオープンであること。そして第3に、ダイバーシティはリスク管理だけでなく投資判断に役立つ新たな視点を生み出すことだ。
私はこの30年間日本の株式市場を分析してきたが、大企業にESGを浸透させるにはかなりの労力が必要だと感じている。
たとえ経営層がESGの原則に賛同しても、長い年月をかけて築いてきた組織の考え方や行動は簡単に変わらない。そんな「大人」よりも、若くて頭の柔らかい「ティーンエイジャー」の方がESGを企業の文化やDNAに組み込みやすい。
外国では、スタートアップが起こすイノベーションが明るい未来を切り拓いてきた。同じ未来は日本でも実現できる。そしてその鍵となるのがESGの実践だ。
スタートアップがダイバーシティやインクルージョン、強いガバナンス、環境への配慮などのESG原則を戦略に組み込むと、持続的に成長できるうえ規模も拡張しやすい。
これこそが2021年5月に私が創業パートナーの村上由美子、関美和と日本初のESG重視型グローバルVCであるMPower Partnersを立ち上げた理由でもある。
とはいえ、スタートアップにおけるESGの実践は「言うは易く行うは難し」。特にダイバーシティの推進に関しては、そんなところに「コスト」をかけられないとの声もある。
しかしダイバーシティを将来のための「投資」として捉えない限り大きな効果は得られない。逆に言うと、スタートアップが採用活動、意思決定、ガバナンスにダイバーシティの視点を埋め込めば、業績向上が期待できる。