ビジネス

2022.09.26

キャシー松井が考える「ダイバーシティが企業の成長に必要な理由」

photograph by Mizuaki Wakahara


スタートアップの業績とダイバーシティ


今度はスタートアップに目を向けよう。

ボストン・コンサルティング・グループとMass Challengeは2018年の研究で、アメリカのスタートアップ350社を「創業チームに女性が1人以上いるグループ」と「女性がいないグループ」に分けて5年間の資金調達額と業績を比較した。

その結果、女性創業者のいるスタートアップの資金調達額は男性創業の半分にも満たないものの(93.5万ドル 対 212万ドル)、累積売上高では男性創業よりも10%高いと判明。さらに女性創業では1ドルの投資に対して78セントの収益を上げたのに対し、男性創業ではその半分以下、わずか31セントしか生み出せていなかった。

では日本のスタートアップではどうか。

MPower Partnersが2020年から2021年にIPOした企業231社を女性創業と男性創業で分けて分析したところ、先ほどの調査と似たような結果が出た。

女性創業スタートアップの創業時以降平均資金調達額(4.3億円)は、男性創業の調達額(7.2億円)より40%も少ないものの、IPO前の資金調達額1円に対するIPO時の時価総額では、女性創業が男性創業より32%高く、IPO年の売上も20%高かったのである。

ダイバーシティが企業の業績を高める理由は主に3つある。

1つ目は、多数派の考えに多様な視点が加わると新たなアイデアや機会が生まれ、イノベーションが加速すること。例えば女性の視点で男性が見過ごしがちな商機に気づくこと。

2つ目は優秀な人材の確保。ダイバーシティを推進しない状態は、潜在的な人材プールの半分を逃しているのと同じだ。

3つ目は、リスクマネジメントの強化。異なる経歴や経験を持つ人々は、多数派が気づかないリスクを拾い上げられる。この点は企業の健全なガバナンスに欠かせない。

特に資本調達面で重要なのが、取締役会における多様性だ。

NASDAQが導入した新たなルールでは、多様な背景を持つ取締役を2023年までに1人以上、2025年までには2人以上配置するよう求めている。またゴールドマン・サックスでは2020年以降、欧米でIPOを引き受ける対象は多様な背景を持つ取締役が1名以上いる企業のみとし、2021年にはそれを2名に引き上げた。

こうした動きが進んでいるのは、経営層に多様性がある企業は業績が高いという証拠があるからだ。実際にアメリカでは2016年以降、上場時に1人以上の女性取締役がいた企業では、その後1年間の業績がそうでない企業を上回っている。
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文=キャシー松井(JVCA理事)

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