「人的資本経営」=「情報開示」ではない
前回は人的資本とは何か、なぜ注目が集まっているのか、人的資本経営に取り組むべき理由などについて解説しました。今回は特に話題になる「人的資本の情報開示」について、具体的な事例とともに考え方をお伝えします。
「人的資本」をテーマとした議論は活発化しています。しかしながら、議論でフォーカスされるのは「情報開示」に偏る傾向が見られます。情報開示を考えるにあたって気をつけていただきたい事は、「人的資本経営」=「人的資本の情報開示」ではないという点です。情報開示は当然重要なのですがゴールではなく、人的資本経営の実践における1つの要素と捉える必要があります。
「人的資本経営」は、戦略と開示がセット
人的資本経営とは───
「人材を経営上の最も重要な資本と捉え、すべての人的資本を活かし、その価値を持続的に向上させる人材戦略の実践を通じて、経営目的の実現と企業価値の向上をはかる経営のあり方」であると、私は考えています。
特定の人だけではなく、すべての人を活かし切るという価値観が人的資本経営の土台になります。その上で、モデル図に示したように「人的資本の価値を高める戦略」に取り組み、「人的資本の情報開示」との両輪で回していくことが求められているのです。
戦略を立て、実践し、その取り組みの経過や成果の情報を社内外のステークホルダーへ情報開示する。さらには、情報開示をきっかけとして従業員・投資家・ビジネスパートナーなどと対話し、その内容を戦略にフィードバックして磨きこんでいく。そのサイクルを回してこそ、「人的資本経営」は成立するのです。
情報開示では「一貫性のあるストーリー」を伝える
現在、特に上場企業にとっての喫緊の課題が「人的資本の情報開示」です。しかし、多くの企業はまだ混乱状態にあります。ここ数年、世界ではさまざまな国や機関から人的資本の情報開示のガイドラインが打ち出されています。日本でも今夏、政府が開示指針を発表しました。4つの基準にもとづく19項目が「開示推奨項目」として挙げられています。