ビジネス

2022.09.09

31年間で平均19%のリターンを出すヘッジファンド王者が予見する未来


しかし、抜け目ない事業戦略家としてのグリフィンは、シタデル・セキュリティーズで市場を支配するアルゴリズムを駆使する天才クオンツたちに、2兆ドル市場の暗号通貨取引の教育を施さずにはいられない。何しろ、ロビンフッドのトレーダーたちからあれほど簡単にもうけられたなら、ドージコインに200億ドルの時価総額を付けるひよっこ投資家から利益を上げるのは朝飯前のはずだからだ。

グリフィンはすでに、暗号資産投資家勢を出し抜いている。21年11月、4300万ドルで米合衆国憲法の初版を購入したときのことだ。サザビーズで行われたこのオークションで彼の最大のライバルとなったのは、ブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨投資集団で、「コンスティテューションDAO(憲法DAO)」と呼ばれる分散型自律組織(DAO)だった。彼らはこの文書を購入するため、何千万ドルもの資金を調達していた。競りの後、グリフィンはそのメンバーに連絡を取ったという。

「一定期間、この文書を共同で管理する、あるいはコンスティテューションDAOに文書のNFT(非代替性トークン)の作成を許可し、DAOの出資者に提供するといったアイデアを提案したのです。ところが、彼らは決断することができませんでした」

代わりに、この初版をアーカンソー州ベントンビルにあるクリスタル・ブリッジズ・アメリカン・アート美術館に貸し出し、展示してもらうことになった。

「ヒエラルキーも、統率構造も、明確な意思決定と権限系統も必要」だとグリフィンは言う。

「参加賞がもらえるような文化では、政治経済で我々の国を率いるリーダーは生まれませんよ」


シタデル◎1990年創業、米資産運用大手。創業者兼CEOはケン・グリフィン。年間平均リターン19%を叩き出す世界最大級のヘッジファンドと、マーケットメーカー(値付け業社)の「シタデル・セキュリティーズ」展開している。特に、後者は米国の株式取引総量の25%以上を占めるなど、株式市場に大きな影響力をもつ。

ケン・グリフィン◎米資産運用大手シタデルの創業者兼CEO。10代にしてIBMでアルバイトし、ソフトウェア事業を起業。22歳だった1990年に、シタデルの前身となる会社を創業。コンピュータ1台、従業員2名からなる“クオンツ運用会社”のはしりだった。初めて株でもうけたのは87年、フォーブスの記事に従ったおかげだったという。

文=マニート・アフジャ & クリス・ヘルマン 写真=アーロン・コタウスキー 翻訳=木村理恵 編集=フォーブス ジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.095 2022年月7号(2022/5/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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