その数日後、ロビンフッドは顧客がミーム株を購入できないようにした。ゲームストップ株の価格は急落し、それがメルビンにとっては事実上のもう一つの救いの手となった。投資家が数え切れないほどの訴訟を起こし、米証券取引委員会(SEC)が調査を開始した後、グリフィンは宣誓下で、ミーム株の取引停止についてロビンフッドから知らされていなかったと連邦議会に語っている。シタデルとロビンフッドの共謀の嫌疑は晴れたが、グリフィンはインターネット上で延々と物笑いの種にされた。
「PFOFを悪者扱いすれば、政治的には点数稼ぎができるかもしれないが、株式市場に対する投資家の信頼や、雇用を生み出す企業への資金投入が損なわれるようなら嘆かわしい」と、グリフィンは語る。
「私の学生時代、取引手数料は19ドルか20ドルでした。それが今日では無料です。個人投資家に移転された価値の大きさには驚くべきものがあります。そしてシタデルは、その現象を引き起こした最大の要因の一つなのです」
懸念はインフレよりも「ドルの武器化」
パンデミック中、グリフィンは5000万ドル以上をワクチン開発やその他の新型コロナ関連の事業に寄付している。また、他のウォール街企業と同様、フロリダに業務拠点を設置。パームビーチのフォーシーズンズホテルに仮設のトレーディングフロアを開設し、50人の主要従業員とその家族を住まわせた。
21年6月、グリフィンは4000人の従業員の大部分をオフィスに呼び戻した。「我々が成功している最大の理由の一つは、オフィスに戻る判断をしたこと」と語り、オフィスで仕事をしていることが、ファンドの顧客に敬意を表することになると主張する。
「社員が対面で連携することが、競合他社の多くにはできない形で行動となり、情報に対応する我々の能力を際立たせているのは間違いありません」
ウクライナ侵略によってコロナ禍もミーム株問題も影が薄くなるなか、グリフィンは、物事のドミノ効果に注目している。彼は一つの惨事への対応が、次の惨事に対処しなければならなくなった際に取ることのできる良策の選択肢を、どのように狭めるか
に関心を寄せているのだ。彼はまず、米国がコロナ禍に対する経済対策、つまり景気刺激策として5兆ドルもの連邦資金を投下している状況を憂いている。
「米国の財政赤字に負担をかけ、次世代に巨額の負債を背負わせることを確定させてしまいました。財政支出が減っていくにつれ、我々はどのような内生的経済成長を経験することになるのでしょうか?」
景気刺激策は、現在8%にまで上昇しているインフレの原因にもなっている。グリフィンは「我々の世代が成人してから、米国は本格的なインフレを経験していない」と言う。
「賃金の上昇が確定しているのに、複数年契約の賃金交渉をする必要があると考える人はいませんよ」
グリフィンはインフレによって、世界中の中央銀行がより積極的に金利を引き上げざるを得なくなると考えている。それは欧州にとっては好ましくない事態だ。電気と天然ガスの価格が過去最高にまで急騰しており、すでに化学製品や天然ガス由来の肥料などの生産を妨げているからだ。
それより大きなリスクは、「ドルの武器化」かもしれないとグリフィンは言う。西側諸国が、何千億ドル分もの現金や有価証券を抱えた銀行口座へのロシアのアクセスを遮断しているからだ。「プーチンはこれを戦争行為と呼んでいる」とグリフィンは語る。