グリフィンのもう一つのビジネスである「Citadel Securities(シタデル・セキュリティーズ)」は、米国でも有数のマーケットメーカー(値付け業者)である。株式に限れば、同社は米国の取引総量の25%以上を占め、個人投資家による取引の40%、そしてストックオプション取引の30%以上を扱う。
数学者や科学者を雇い、予測分析や機械学習、人工知能(AI)といった最先端のテクノロジーを活用し、膨大な量のデータをリアルタイムで分析している。その結果、同社は新たな市場にも進出しており、グリフィンのヘッジファンドより急速に成長中だ。
1株当たりで稼ぐ額は1セントをはるかに下回るが、シタデル・セキュリティーズはこれで、21年には70億ドルの収益を稼ぎ出しており、さらに、グリフィンは初めて、自身の投資帝国の一部を外部の人間たちと分かち合うことに同意し、そのもち分株式をベンチャー投資会社のセコイア・キャピタルとパラダイムに売却した。この投資取引でシタデル・セキュリティーズに付けられた評価額は220億ドルだ。
暗号資産を専門に扱うパラダイムから投資を受けたことは、急成長を続けている暗号通貨取引ビジネスにおいても大手マーケットメーカーになろうとしているグリフィンの思惑を浮き彫りにしている。シタデル・セキュリティーズを率いるのは北京生まれのデータ科学の天才、パン・ヂャオ(40)だ。ヂャオはカリフォルニア大学バークレー校で統計学の博士号を取得しており、シタデルの預かり資産をデジタル資産取引に導いていくのに申し分ない資質を備えている。
カジノの世界でいえば、シタデルは胴元(運営側)だ。市場の上昇や下落は関係ない。人々が有価証券を売買し続けている限り、シタデルは利益を上げ続ける。糧になっているは取引数量の多さで、欧州で起きている戦争の影響を懸念しているグリフィンも、市場の不透明感と騒乱が自身の帝国の資産を増やすことになるのはわかっている。
グリフィンはキャリアの大半を通じ、注目を浴びないようにしてきた。ところが昨年、手数料無料の証券会社「Robinhood(ロビンフッド)」との緊密な関係によって要らぬ関心を集めることになってしまった。
シタデルは、証券会社が顧客の注文をマーケットメーカーに回してリベートを受け取る「ペイメント・フォー・オーダー・フロー(PFOF)」と呼ばれる慣行を通じ、ロビンフッドから毎日、有償で大量の売り注文や買い注文を回送してもらい、強力な演算能力を駆使し、自分たちが実質的にノーリスクの利益を稼げるやり方で、そういった取引注文をマッチングしている。PFOFは合法であり、これこそが、ロビンフッドが手数料無料で取引を提供できる理由だが、この慣行をきなくさいと見なす向きは多い。
21年2月、グリフィンは連邦議会の前に引っ張り出され、公聴会で証言する羽目になった。当時、ウォール街を席巻していた「ミーム株(はやり銘柄)」ブームの代表格であったゲームストップ株の取引停止に関する証言を求められたのだ。経緯はこうだ。主にロビンフッド経由で投資をしていた経験の浅い投資家の大軍が、業績が低迷していたこのゲーム販売会社の株に大量の買い注文を入れて株価を前代未聞の領域にまで引き上げ、その過程でプロの投資家たちの鼻をあかしたのだ。
ゲームストップに空売りを仕掛けていたニューヨークのヘッジファンド、メルビン・キャピタルは、このショートスクイーズ(価格引き上げによる空売りの締め上げ)で危うく清算を余儀なくされそうになった。そこでシタデルと、スティーブン・A・コーエンのヘッジファンド、ポイント72が、27億5000万ドルの緊急投資を行った。