この研究は、シカゴ大学医学部のジャスティン・ポーター(Justin Porter)博士が先駆的に行ったもので、「成人患者にプライマリーケアを提供するために必要とされる時間の再検討(Revisiting the Time Needed to Provide Adult Primary Care)」というタイトルがつけられている。この研究では、2500人の患者を想定し、ガイドラインに沿ったケア(例:米国予防医学専門委員会のガイドラインに沿ったケア)を提供するために何が必要かを検討した。研究されたカテゴリーには、慢性疾患や急性期ケアに加えて、予防医療も含まれる。
その結果、「患者への理想的なケア」のために定められたすべての推奨事項を医師が守るためには、1日24時間では不足することが明らかになった。特に、実際の診療の場では、時間的制約が大きいという。
ポーター博士は次のように説明する。「我々が提供するよう訓練を受けてきたケアと、診療所における仕事の制約とのあいだには断絶がある。(中略)ガイドラインの内容は増え続けているが、診療時間はそれに比例して増えてはいない」
医療の実践は、理論とは大きく異なる。リアルタイムの診療では、医師は数多くのタスクや非効率な作業に追われ、ワークフローは常に乱れている。
最も多くの時間をとられる作業のひとつがカルテ作成だ。電子カルテ(EHR)システムは以前から、医師がより早く、より効率的にカルテを作成するために必要なデジタルツールを提供し、カルテ作成プロセスをスピードアップできるとされてきた。しかし多くの医師は、EHRシステムが、従来の書面による記録と比べて面倒であり、複雑なシステムのトラブルシューティングに、患者への実際の対応よりも多くの時間を費やさざるを得ないと感じている。
その他にも、保険関係の手続き、患者への結果連絡、患者からの問い合わせ対応、診療管理に関する補助スタッフとの連携など、医師が1日のあいだにやらなければならないことはたくさんあり、そのリストは常に増え続けている。
最終的に一番困るのは患者だ。
ポーター博士は、この難問を患者がどう感じているかを完璧に捉えている。「患者に対して、医療に関して何が不満かアンケートを取ると、頻繁に出てくるのは、『担当医は、私にちゃんと時間をかけてくれない』『私の状況をフォローしてくれない』という言葉だ(中略)これは多くの場合、共感の欠如や、患者をケアしようという意欲の欠如と解釈されていると思う。しかし現実は、大多数の医師にとっては、単に時間がないだけのことだ」
このことは、医療提供におけるほぼすべての側面で重大な問題になっている。米国内(そして世界)のほとんどの地域で、大規模な医師不足が起きている。つまり、開業医は、日常的に信じられないほど多数の患者を診察しているが、それでも、診察を待ち望む患者の長い行列ができている。加えて、責任を増やし、新しいガイドラインを順守し、患者の高い満足度を維持し続けなければならないという医師へのプレッシャーは増え続けている。簡単に言えば、それは終わりのない戦いだ。
医療機関や政策立案者がこうした問題を認識し、圧力を軽減するための対策を講じる必要があるのは間違いない。医療へのアクセス機会を増やすための資金援助であれ、診療所へのリソース提供であれ、こうした危機が回復不能に陥る前に変化を起こさなければならない。
(forbes.com 原文)