ガス不足の影響が深刻なドイツ
ユーロ圏の国で、特にガス不足などの悪影響が危惧されているのが、エネルギーの対ロシア依存度の高いドイツだ。同国のケルン経済研究所の付属機関「iwd」によると、2020年のロシアからの天然ガス輸入の比率は55%に達していた。
ウクライナ危機でロシアからのガス供給量は減少、冬の厳しい寒さに備えて備蓄を急いでいる。その一環としてドイツ政府は9月1日から向こう6カ月の時限措置で、病院などを除く公共施設の暖房の最高温度を19度にするなどの省エネ対策の実施に踏み切った。モニュメントの照明の点灯を禁止するほか、店舗に対し午後10時から翌朝6時までのイルミネーション広告消灯なども求めている。
閣僚や州政府の幹部らも国民にエネルギーの節約を呼びかける。こうしたなか、同国の南西部バーデン・ヴュルテンベルク州のクレッチュマン州首相の発言が物議を醸している。
州首相は同国の日刊紙のインタビューで持続可能な生活を営むための秘訣などに言及。ドイツ語で「Waschlappen(ヴァシュラッペン)」と呼ばれるタオルが実用的な発明であり、いつもシャワーを浴びる必要はない、などと述べたことが反発を招いたのだ。
ドイツでは多くが袋状の形などをしたヴァシュラッペンを愛用しており、シャワーを浴びずにこのタオルで身体を拭くだけで済ませることも少なくないという。隣国ルクセンブルグで働く人や生活する人を対象にした同国の生活情報サイト「レ・フロンタリエ・エ・レジダン」によれば、ドイツ人がシャワーを浴びるのは平均で週4回だ。
だが、州首相の発言にネットユーザーからは「建設現場などで12時間働き、帰宅してもタオルしか使わせてもらえないのはどうなのか」などと批判の声が上がった。
インタビューで州首相は電気自動車を所有し、自宅の屋根に巨大な太陽光発電システムを設置していることなども明らかにした。これに対して政治家の1人は、同国で人気のオーガニックの炭酸飲料の名前に絡め、エコに敏感な人を揶揄する際に用いられる「ビオナーデ・ブルジョワジー」と州首相を一刀両断。「長年にわたって毎日、おカネをためなければならない人たちといかに乖離してしまったことか」とツイートした。
州首相は連立政権を構成する緑の党に所属するが、連立のパートナーである社会民主党(SPD)の幹部もブルジョワジー批判を展開。「月収5ケタの人が節約方法を教えるのはおかしい」と矛先を向けた。一方、皮膚科医からは「オフィスワーカーは週に1回のシャワーで十分」などと擁護する意見も聞かれる。
フランスのラジオ局「ユーロップ1」はドイツの一部店舗で電気ストーブが8月から早くも品薄状態に陥っていると指摘。「外は日陰でも30度を超える気温なのに、ガスや石油の枯渇をおそれて人々が殺到している」などと伝えた。「ヴァシュラッペン論争」(独メディア)が熱を帯びているのも、ガス不足へのいら立ちや不安を覚える国民が少なくない証左かもしれない。