宇宙飛行で心臓病やがんの発症リスクが上昇、米大学の論文

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宇宙飛行は、短い間であってもDNAの変異を引き起こし、心臓病やがんの発症のリスクを上昇させるという研究結果が8月31日、生物科学関連のジャーナルの「Communications Biology」に掲載された。この論文は、複数の民間宇宙旅行会社が、宇宙への旅をビジネスにしようとする動きに疑問を投げかけるものだ。

ニューヨークのマウントサイナイ医科大学の研究チームは、1998年から2001年にかけて宇宙飛行ミッションに参加した14人のNASAの宇宙飛行士の血液サンプルを調査した。

その結果、14人の宇宙飛行士全員の血液に、クローン性造血と呼ばれるDNAの変異があることが分かった。クローン性造血は、必ずしも疾患の存在を示すものではないが、血液がんや心血管疾患のリスクを上昇させ、より深刻なクローン性の不定性疾患(CHIP)に発展する可能性があるという。

研究者らは、今回観察されたクローン性造血は比較的小さいものではあったが、宇宙飛行士が比較的若く(彼らの年齢の中央値は42歳)、宇宙飛行の際に健康であったことを考えると、この発見は驚きだと述べている。

論文の主執筆者であるデヴィッド・グーカシアン教授は、「深宇宙の極限環境に継続的かつ長期的にさらされることによって、リスクが高まる可能性がある」と声明で述べた。

研究者らは、NASAに対し、CHIPの発症がより一般的になる老齢期まで、3年から5年毎に宇宙飛行士の体細胞突然変異とクローン拡大をスクリーニングすることを推奨し、宇宙飛行の人体への長期的影響についてより大規模な研究を行うよう呼びかけた。

宇宙飛行士は、宇宙放射線が体細胞突然変異を引き起こす可能性のある「極限環境」で働いているとグーカシアン教授は述べている。これまでの研究で、放射線被曝と無重力状態が宇宙飛行士の身体にストレスを与え、遺伝子に影響を与える可能性があることが指摘されている。

国際宇宙ステーションに1年間滞在したスコット・ケリー宇宙飛行士の場合、地球に帰還してから2年が経過した後も、細胞内での遺伝子機能の約7%が基準値まで戻っていなかったという。

マウントサイナイ医科大学の研究チームは、商業宇宙飛行と深宇宙探査への関心が高まっていることを受け、宇宙飛行の健康リスクについて遡及的に研究することにしたという。

ここ数年で、イーロン・マスクやジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソンらは「億万長者の宇宙開発競争」を展開している。しかし、彼らの企業の宇宙飛行の時間は、数分程度という短いものだ。

forbes.com 原文)

編集=上田裕資

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