沖縄戦や基地問題から「いま」を考える。狩俣日姫が目指す平和教育アプローチ

平和教育ファシリテーター/さびら共同創業者 狩俣日姫

次世代を担う「30才未満の30人」を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」。そのエデュケーション部門を受賞した1人が、平和教育ファシリテーターの狩俣日姫(24)だ。

今年は、沖縄県の本土復帰50周年という歴史的な節目の年。米海兵隊普天間基地を抱える宜野湾市に生まれ育った狩俣は、県内や修学旅行で沖縄を訪れた学生たちに、沖縄戦や基地問題についてのガイドやワークショップを行っている。


狩俣が行う平和教育は、戦跡や資料館で戦争を学んで終わりではない。「過去にあった悲劇を繰り返さないために、自分たちがこれからの社会をどのようにつくっていくか」を能動的に考えさせるアプローチが特徴だ。

平和教育に関心を持ったのは、高校卒業後に行った留学先でのこと。自分よりも海外の人の方が沖縄の文化や歴史に詳しかったことに衝撃を受けた。

「生まれたときから基地のそばで生活をしてきましたが、事件・事故のニュースはある種日常なんです。実際にどういう問題や背景があるのか全く知りませんでした。故郷のことを学ぶのに沖縄戦や基地問題は避けては通れない。そこから平和教育への道へと進みました」

自身も小学校から高校まで、毎年「慰霊の日」にあたる6月には、毎年沖縄戦についての平和教育を受けてきた。しかし、戦争体験者の話を聞いても、予備知識がないため「艦砲射撃」「上陸戦」などの戦争用語が理解できず、地名を言われてもピンとこない。

「目の前で人が死んだ」というショッキングな感情のみが残り、「平和学習は気分がよくないもの」と思うようになった。

「今後はさらに戦争体験者も減り、直接話が聞きにくくなってどんどん戦争が遠いものになってしまう。私が子供時代に感じた平和学習の嫌なイメージを変えるような、平和教育プログラムが必要だと考えました。その土台として、『なぜ学ぶことが大事か』という姿勢づくりからしっかり整えたかった」

狩俣が目指すのは、沖縄戦や過去を学ぶことを通じて、自分たちが「いま」生きている場所や社会を見つめ直すことだ。

「自分の街にはどういう歴史があったのか、どんな問題を抱えているのか。『政治や社会問題は難しくて人と話しづらい』というハードルを下げて、『本当にこれでいいの?』と一緒に声を上げてくれる人をたくさんつくりたいんです」

この6月には、平和学習事業と編集プロダクション業を手がける会社さびらを共同創業した。今後は、平和教育の担い手や研究者の育成にも力を入れていく。

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かりまた・につき◎1997年、沖縄県宜野湾市生まれ。高校卒業後、修学旅行生に平和学習を行う教育ベンチャー企業に就職。その後、フリーランスで活動を続け、2022年6月、さびらを共同創業。

文=堤 美佳子

この記事は 「Forbes JAPAN No.098 2022年10月号(2022/8/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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