ジェンダーやセクシュアリティにまつわる社会課題を解決したい――そうした強い想いで事業を推進していますが、一方でマーケットが狭いことも頭の片隅にあります。顕在化していないニーズに対するビジネスを展開、拡大していくにはどうすればよいのかと、合田さんは悩んでいます。
そんなお悩みに対して自身の経験をシェアしてくれる今回のお助け隊は、シニフィアンの朝倉祐介さん、ジーンクエストの高橋祥子さん、Off Topicの宮武哲郎さんの3人。ファシリテーターを担うお世話役は、昨年に引き続き、宮崎県・新富町で循環型の地方創生を推進しているこゆ財団の齋藤潤一さんが務めます。
合田さんのお悩みは解決するのか? どんな気づきが生まれるのか? お悩みピッチ2022、スタートします!
社会課題の解決を目指し、潜在的なマーケットを開拓する方法とは?
齋藤さん
さて、まずは合田さんからお悩みを詳しく教えていただけますか?
合田さん
私たちの事業は、特定の方の真剣な課題を解決できます。でも、多くの方にとっては縁の遠い話です。社会課題の一つを解決する想いで運営しているものの、そうしたニッチなニーズをどうすればビジネスとして発展させられるのかご意見をいただきたいです。
齋藤さん
まずは合田さんと同じように、“遺伝子解析”という世間ではあまり認知されていないところからサービスを始めたジーンクエストの高橋さん。どのようにニーズを開拓していったんでしょうか?
高橋さん
起業当初は、マーケット調査をしても「遺伝子解析をしたい人」なんていませんでした。でも、世の中には健康でいたい人はたくさんいます。だから、遺伝子解析をしたい人を探すのではなく、人間ドッグや健康食品など、健康でいたい人に向けたサービス提供をする企業とパートナーシップを組んでいきました。そこには健康意識の高いユーザーがたくさんいます。遺伝子が何なのかわからなくても、健康でいたい人たちが利用してくれるようになったんです。
齋藤さん
米国のインターネットカルチャーや先端テクノロジーを伝えるポッドキャスト「Off Topic」を運営されている宮武さんは、スタートアップの動きでいいアドバイスはありますか?
宮武さん
Amazonなら本、Airbnbなら民泊など、どんなスタートアップも最初はニッチな領域からスタートしています。大事なのは、そこを乗り越えるために既存の顧客層をより深く入り込み、彼らのために他に何が提供できるのかを考えていくこと、つまりタテ軸に伸ばすのか、作り上げたインフラを使い、他の層や海外に展開して拡大していくこと、つまりヨコ軸に伸ばすのかです。高橋さんが進められている健康でいたい方向けのサービスを展開している企業とのパートナーシップや、コラボレーションは、タテ軸、ヨコ軸どちらもの良いとこ取りができる最適な方法と言えますね。
齋藤さん
スタートアップの経営支援を行うシニフィアンの朝倉さんは、どうですか?
朝倉さん
「ニッチ」でも、ニーズがある程度は顕在化しているのか、もしくは対象ユーザー自身もニーズに気づいておらず、ニーズが潜在しているのかによって、対応は変わってくると思います。前者なら、すでに何かしらのプレイヤーがいると思うので、ポジショニングを考える必要があります。後者なら、合田さんがサービスを始めたきっかけや、最初のユーザーにこのサービスがなぜ刺さったのかを掘り下げていくと、アプローチの仕方が見えてくるのではないでしょうか。
合田さん
正直、サービスを提供している私たちもまだまだ調査を続けなければいけない市場なんです。そうした中で意思決定をしなければならなくて……。データや情報はたくさん集めているんですが、一体どこまで集めれば自分の決定に確信を持てるのでしょうか?
直観かデータか。どうやって意思決定をしている?
齋藤さん
経営者にとって意思決定は一番重要ですよね。直観で決めるか、データから決めるか。皆さんはどのように意思決定をしているのでしょうか?
高橋さん
私はバイアス(偏り)とバライアンス(相違)という点を意識しています。直感だけだと人によって違うからバイアスが入るし、一方で情報だけだと過去のものでしかないので今後の状況とは違う。私は情報を徹底的に集めますが、最後は自分が覚悟を持てるかどうかで決めています。
ちなみに、日常的に訓練もしているんですよ。例えば、1時間の会議に参加するとき、「参加しなければよかったと思わない」と先に決める。すると、自分の発言が変わってとても有意義な1時間が過ごせます。飲食店でメニューを決めるときも同じ。「今日はこれを食べる」「これをする」と決めて、後から後悔しません。選んだ道を正解に進んでいく意志の力が大事なんじゃないかな、と考えています。
朝倉さん
僕の意思決定のタイミングはシンプルで、温泉に入っているときか、馬に乗っているとき。自分がリラックスできている時にこそ、冷静な判断ができると考えています。だから、温泉も乗馬も、遊びじゃなくて仕事のうちなんですよ(笑)。
朝倉さん
ゼロ・イチで生み出すような事業なら、そもそもデータがない。まずはやってみて、実践を通してデータを集めるのもいいのではないでしょうか。もしも思っていた状況と違ったら、素直に「間違えました!」って言えばいいんです。最初に決めたことにこだわりすぎないのも大切です。
宮武さん
直感派もデータ派も成功事例はたくさんあります。責任者が“どうしたいのか”の話であって、どんなシナリオを組むかが重要です。例えば2つの道があったとしたら、左に行った後にはどんな道があるのか、万が一間違えだったら戻ることができる道なのか。そのシナリオが描ければ、先が見えてくると思います。
齋藤さん
僕、実は優柔不断で……。「インド行くぞ!」とか事業は即決できるのに、なぜかファミレスではメニューがまったく決められないんですよ。どんな場面においても「意思決定」が得意な人というのは、そもそもいないんじゃないかなと思います。
朝倉さん
そうですね。僕もギリギリまで考えて、やるかどうかを悩み続けたことがあります。経営者にとって究極の意思決定のひとつは、「会社の売却」だと思うんです。僕は自分の会社を売ったこともあるし、ギリギリまで悩んでやめたこともある。いろいろなデータを集めても、なかなかその決断の良い悪いを評価することはできません。決められないんですよ。めちゃくちゃなことを言うかもしれませんが、考えつくした結果、最後は自分がどうしたいのかで決めました。思うところがあるのなら、僕はそれを優先すべきだと思います。僕は当時の選択が、自分にとって正しかったと思っています。
合田さん
お話をうかがって、やはり一番大事なのは、自分の「覚悟」なんだと、改めて確信できました。皆さんもいろんな葛藤がありながら、最後は「覚悟」を決めてきたんだと知って、背中を押された気持ちになりました!
「覚悟」をもつことはシンプルだけど簡単なことではない
齋藤さん
覚悟って、決して簡単なことではないですよね。でも、覚悟とはその漢字の通り、自分を目覚めさせ、自分を知ることです。合田さんは、ご自身を知ることができそうですか?
合田さん
はい。投資家の皆さんをはじめ、ステークホルダーとなる方が増えていく中で、どんどん「経営を成り立たせなければ」というところにばかり頭を使っていたように思います。この事業にニーズがあることは確信していても、タテに伸ばすべきなのか、ヨコに伸ばすべきなのか、ユーザーの気持ちともっと向き合う時間が必要だったんですよね。いろんな意見を踏まえて事業の根幹にかかわる大きな意思決定した結果、失敗してしまうのが怖くなっていんたのかもしれません。
高橋さん
みんな合田さんと同じように悩みながら、いろんな課題と向き合っているんですよね。私も起業当初、「なんでこんなに課題だらけなんだろう……」と思って思い悩んでいたことがあって。それをふと母に話したら「やめてもいいんじゃない?」って言われたんです。その時、ハッとしました。私が感じている課題は、母にとってはまったく課題ではないんですよね。誰かに頼まれてやっているわけでなく、「こういう世界を作りたい」という強い想いがあるから、自分にとっては課題になる。課題を感じて、どうにかしたいと悩むことは、起業家として、とても素敵なことなんだなと思います。
朝倉さん
まさに、誰からも頼まれてもいないのに、自分が成し遂げなければならないと信じることを実現するために、自ら率先して行動する人。それが僕の定義するアントレプレナーです。一番大事なのは、「誰からも頼まれていない」こと。スティーブ・ジョブズだって、頼まれてiPhoneを作ったわけじゃないじゃないですか。自分がやらなきゃと感じている合田さんは、ものすごく起業家気質だと思いますよ。
宮武さん
スタートアップって答えがないからこそ、自ら答えを作らなければならないんですよね。答えを求めずに、いかに課題を引っ張り出していくか。そこにいる人たちが何を話し、その裏には何があるのか。とにかく周囲の言葉に耳を傾けて、ひたすらヒアリングしていかなければなりません。それでも批判もされるし、時には違う意見もたくさん耳に入ってくるでしょう。自分で決めて、失敗しながらでも、前に進んでいくことが大事だと思います。
齋藤さん
合田さん、皆さんのお話を聞いて、次にやりたいアクションはありますか?
合田さん
ひとつは、ステークホルダーともっと“対話”をしていきたいです。もうひとつは、スパッと決めてやること。スピーディにトライ&エラーを繰り返していくべきだと気づきました。
考えすぎて、ひとつひとつの意思決定までに時間をかけすぎていましたね。
合田さん
今日お話を聞いて、とても心動かされました! 皆さんのようなご活躍されている先輩たちでも失敗をされていて、たくさん悩みながら進んできたんだなと思うと、勇気になるというか。私は失敗をすごく恐れていたと気づかされたのと同時に、叶えたい世界があることも改めて強く感じました。そこに向けて頑張っていく覚悟が、今日できた気がします。ありがとうございました!
イベント終了後、合田さんに改めて感想をうかがったところ、「1対1ではなく数人との座談会形式で自分のお悩みだけにスポットを当てていただくというスキームそのものが、とても貴重なものでした。ほかの企業とのコラボや、縦と横にどうビジネスを伸ばすかという細かく具体的にいただいたアドバイスだけでなく、根本の心構えというか、より覚悟を持ってスピーディーに意思決定し、進んでいくための後押しをいただくことができたと感じています」と答えてくれました。
経験値や自信がなくて、1歩が踏み出せないことは誰にでもあります。そんなとき、「仲間」であり「先輩」であり「師」である経営者たちから応援をもらい、勇気をもらってください。
お悩みピッチはそのための場です。こちらの「虎の巻」(https://forbesjapan.com/feat/amex_toranomaki/)を参考にぜひこの「場」を体験してください。Forbes JAPANとアメリカン・エキスプレスはお悩みピッチを通して経営者同士の助け合いが広がっていくことを心から願い、これからもサポートしていきます。
過去のお悩みピッチはコチラ↓
https://forbesjapan.com/feat/amex2021_onayamipitch/
▼プロフィール
【今回のお悩み人】
株式会社TIEWA CEO
合田 文
TIEWA代表取締役。「ジェンダー平等の実現」などの社会課題をテーマとした事業を行う。共通点でつながる男性同士向けマッチングアプリ「AMBIRD」を運営。広告制作からワークショップまで、クリエイティブの力で社会課題と企業課題の交差点になるようなコンサルティングを行う傍ら、LGBTQ+やフェミニズムについてマンガでわかるメディア「パレットーク」編集長をつとめる。
https://tiewa.co.jp/
【今回のお助け隊】
シニフィアン株式会社 共同代表
朝倉 祐介
東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員などを経て、現職。
https://signifiant.com/
株式会社ジーンクエスト 代表取締役
高橋 祥子
1988年生まれ。2010年、京都大学農学部卒業。2013年6月東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に株式会社ジーンクエストを起業。2015年3月、博士課程修了。生活習慣病など疾患のリスクや体質の特徴など約300項目におよぶ遺伝子を調べ、病気や形質に関係する遺伝子をチェックできるベンチャービジネスを展開する。
https://genequest.jp/
Off Topic株式会社 代表取締役
宮武 徹郎
バブソン大学卒。事業会社の投資部門で主に北米スタートアップ投資に従事。Off Topic株式会社を2021年に立ち上げ、コンテンツ制作などを担当。
Off Topic
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/off-topic
【今回のお世話役】
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構 代表理事
齋藤 潤一
米国シリコンバレーのIT企業でブランディングマネージャーを務めた後、帰国。東日本大震災を機に「ビジネスで地域課題を解決する」を使命に地方の起業家育成を開始。2017年より宮崎県新富町役場が観光協会を解散して設立した一般財団法人こゆ地域づくり推進機構の代表理事に就任。2020年のお悩みピッチでもファシリテーターを務める。
https://koyu.miyazaki.jp/