クリエイター・エコノミーの教祖が語る「創造性を所有する新しい経済圏」

ヴァリアント共同創業者 リ・ジン

世界のインフルエンサーから慕われるベンチャー・キャピタリストで、ブロガーのリー・ジン(31)が語る、インターネットとクリエイターエコノミーの新しい未来とは。フェアですべての人に優しいインターネットは実現可能か。Forbes JAPAN9月号(7月25日発売号)の特集「創造性に投資せよ」の記事から抜粋掲載する。


世界のインフルエンサーに慕われる、クリエイター・エコノミーの教祖がいる。名前はリー・ジン、31歳。ベンチャー・キャピタリストだ。中国生まれのアメリカ人で、シリコンバレーをベースにクリエイター・エコノミーにいち早く目をつけ、関連するスタートアップに投資してきた。

YouTubeやフェイスブック、TikTok、スナップチャットといったプラットフォームには、世界中の人々が集まり、無数のコンテンツを消費している。それらのコンテンツは、消費者でもあるクリエイターが生み出したものだ。リー・ジンによれば、Web3の到来はクリエイター・エコノミーの新時代の幕開けでもあるという。

彼女自身もまた自身のブログサイトを運営し、17万人(2022年7月現在)のツイッターフォロワーをもつクリエイターだ。彼女の最も有名なブログポストのひとつに、『パッション・エコノミーと未来の仕事』というものがある。この19年に書かれた彼女のブログポストは、彼女が当時在籍していた米大手VCのアンドリーセン・ホロウィッツのブログに掲載され、多くのインフルエンサーやそのサポーターたちに衝撃と共感を与えた。

「従来のオンライン労働マーケットプレイスは、働く人の個性を平板化したのに対して、新しいプラットフォームでは、誰もが個人のユニークなスキルを収益化できる。ギグワークは発展性がなかったが、いまは創造性を資本化するたくさんの方法がある」(リー・ジン『パッション・エコノミーと未来の仕事』より)

従来のUberのようなプラットフォームでは、提供されるサービスは均質化かつ効率化され、サービス提供者は「個人事業主」になったものの、プラットフォームに支配される関係にあった。一方の、パッション・エコノミーは人々の個性が収益化できる、まったく新しいデジタル・プラットフォームが土台になる。個人が顧客との関係性を築き、ビジネスを成長することができる、オンラインの新しい起業モデルだ。

リー・ジンはこの新しい時代が到来する前から、クリエイターにかかわるビジネスにのめり込んできた。

インフルエンサーに慕われる教祖


未来のクリエイターのビジネスモデルを提唱するジンのもとには、数万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーたちがアドバイスを求めて連絡する。どうやってファンを増やすのか。どんなツールで収益を上げることができるのか。クリエイターとしてだけではなく、世界的なVCの投資家として、クリエイター・エコノミーのビジネスノウハウを発信してきた彼女へのインフルエンサーたちの信頼は厚い。

「多くのポテンシャルのあるクリエイターが生計を立てるのに苦しんでいるのを見ると、自分のことのように感じる」と、クリエイターでもあるジンは語る。

北京生まれのリー・ジンは、アメリカの大学で経済学博士号の取得を目指す父親と美術の先生の母親と6歳で渡米し、ピッツバーグで子ども時代を過ごした。母親の影響で、写真や美術に幼いころから興味をもち、Web2全盛期の2000年代、弱冠10歳でブログを始めていた。「そのころからオンラインクリエイターだったと思っている」と彼女は振り返る。
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文=成相通子 写真=前田直子 ヘアメイク=中田 優

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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