Web3の所有の可能性
クリエイターが社会的交流をした際に利益を上げられるアプリのPearpopやクリエイターが財務管理できるアプリStirなどに投資した(リー・ジンの投資先については、Forbes JAPAN9月号P76〜77に詳細)。さらに21年にはWeb3と暗号通貨関連の投資を行うファンド、Variantを共同創業した。
この暗号通貨こそが「クリエイターがコンテンツや自らの観客を『所有』し、最終的には参加している人々すべてをプラットフォームの『真の所有者』にすることができるテクノロジーだ」と彼女は考えている。「所有権がなければ、クリエイターは最終的に誰か別の人―つまりプラットフォーマーに富と力を授けているにすぎない。
クリエイターのつくり出す価値は、クリエイターをコモディティ化し、取り替え可能な労働として扱うシステムに取り込まれてしまう」(リー・ジンのTwitterでの発言)
次世代プラットフォームの方向性に対しての、リ・ジンの積極的な発言の背景には、ベンチャー投資家は社会の「アクティビスト」であることと同じだと考える彼女の強い信念がある。
22年5月には、米ハーバード・ビジネス・レビュー誌で、米政治哲学者のジョン・ロールズの「正義論」を引用しながら、フェアでよりよいインターネットをつくるための議論を呼びかけた。
「正義論」で、ロールズは、フェアな社会を新しくデザインするためには、「無知のベール」をかぶるべきだと論じている。すなわち、自分の出自や肩書、階層、資産や能力などをまったく知らない状態だと想像する。それでも参画したい社会なら、フェアですべての人に優しい社会であり、そのような社会をデザインするべきだという。
同様に、生まれたばかりのWeb3をデザインできるいまこそ、富裕層や早く参画した人、テクノロジーに詳しい人などの特定層だけを優遇するシステムではなく、よりフェアなインターネットを実現するための原理原則が必要だとリー・ジンは主張するのだ。
Mirrorはこのような特徴をもつブログ・プラットフォームのひとつ(「公正なweb3に寄与するスタートアップ」についてはForbes JAPAN9月号P77に詳細)。メンバーの社会クラスターを最大限多様化させるようなアルゴリズムを使ってトークンを分配し、より多様な人がプラットフォームの運営に携われるように配慮されている。
「私は、特定の会社やプロジェクトに投資をして、未来をかたちづくるアクティブな役割を担っています。どんな未来をつくりたいのか? 投資も、ブログで発表するのも、アクティビズムなのです」
リ・ジン◎ヴァリアント共同創業者。ハーバード大学卒、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA中退。ニューヨークでCapital Oneに勤務後、サンフランシスコのShopkickのプロダクト・マネジャーに転職。2016年からアンドリーセン・ホロウィッツに参画し、20年にアトリエ・ベンチャーズ、21年にVariantを共同創業。