だが、化粧品大手のエスティローダーが、トム・フォードを傘下に収めることに関心を持つのは、なぜなのだろうか?
考えられる理由は、いくつかある。まず、エスティローダーはすでに長年、トム・フォードと共同でフレグランスを手掛けている。そのためエスティローダーは、トム・フォードをよく理解している。
「買収は経済的な面に基づいて行われるべきものであり、その企業を知っていることが買収する理由にはならない」と言う人もいるだろう。確かに、そのとおりだ。だが、企業文化は買収計画が頓挫する原因のひとつでもある。
企業文化を内側から知っていることは、価値のあることだ。買収が失敗に終わるリスクを軽減することになる。エスティローダーはトム・フォードの中に、他の企業には簡単に見つけることができないビジネスチャンスを見出すことができたということかもしれない。
また、この買収は、実現すればエスティローダーの多様化を推進することになる。それは重要であると同時に、理にかなったことでもある。莫大な利益を生み出しているエスティローダーが保有するキャッシュは、生産性を高めるために使われなければならない。今後の成長のために使う方法として、買収は合理的だ。
LVMHやケリングを目指す?
一方、トム・フォード買収のうわさに関して驚くべきことは、それが示唆するエスティローダーの戦略的思考だ。この計画は、同社が自らを「高級品ビジネスに携わるもの」と捉えていることを意味している。
エスティローダーはこれまで、「美容関連のビジネスに関わる企業」とされてきた。だが、トム・フォードを買収した後、同社の事業を説明するために使われる言葉は、再定義されることになるだろう。