ただ、この問題はいまに始まったものではない。介護保険制度がないときには、高齢者の介護や看護は家族でやるのが当たり前で、学生や若い世代の負担になることはしばしばあった。
ところが、家族の単位が小さくなり、そのうえ認知症になる高齢者が増えてきており、介護や障害者へのサポート制度を使っていたとしても、高齢者や障害者のケアをする若い世代の負担が度を越えてしまう事例が出てきたのだ。
ケアラーの存在を掴むことの難しさ
2019年10月、神戸市で痛ましい事件が起きた。22歳の幼稚園教諭が、自らが介護していた90歳代の認知症の祖母を殺害したのである。この事件の刑事裁判のなかで、この女性が数か月間にわたる孤独な介護を続け、疲れ果てていたことが明らかになった。女性は22歳で、厚生労働省が規定する「18歳未満」ではないが、彼女もまたヤングケアラーであることは確かだ。
そこで神戸市は、このように家族の介護や世話に苦しんでいる学生や若者たちへの支援が必要だと、昨年6月、ヤングケアラーへの相談窓口を設置した。こうした専門部署を立ち上げ、支援をやっていくと表明したのは、神戸市が全国でも最初の自治体となる。
専門部署を立ち上げたのはいいが、たちまち課題に直面した。神戸市が日常的に持っている情報では、どれくらいの人々がこのヤングケアラーの問題で苦しんでいるのかは不明だったのだ。支援しようとしても、誰がどこで困っているのかが掴むことが難しかった。そこで、本人や家族だけでなく、学校やケアマネージャーなどの関係者からも情報を寄せてもらおうと考えた。
結果、窓口の開設から1年間で69件の相談があった。ヤングケアラー本人やその家族からが15件で、残りの54件は学校の先生やケアマネージャーなど関係者からの相談だった。