神戸市が取り組む「ヤングケアラー」支援 自治体として全国初の相談窓口を設置

こども・若者ケアラー(ヤングケアラー)の相談窓口


やはり、困っている当事者は声をあげにくいようだった。しかも、関係者からの相談54件のなかで、市の相談員が本人や家族に話を聞こうとしても、直接会えたのはたったの10件に過ぎなかった。

「自分は大丈夫です」と言うケアラー


このようなことがどうして起きるのか。社会福祉士や精神保健福祉士、介護福祉士の資格を持ちながら、開設以来この1年間、窓口で相談員として携わってきた末廣順子は次ように語る。

「両親を亡くした学生が要介護の祖父と2人で住んでいる事例では、介護にはホームヘルパーが定期的に訪問していましたが、実はこの孫が学校に通いながら、祖父の毎日の食事など生活を世話していました。それでヤングケアラーではないかと最初に察知したのは、ケアマネージャーと地域包括支援センターの職員でした」


社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士の資格を持つ末廣順子相談員 

マネージャーと職員から連絡を受けた末廣は、孫である学生本人に会って、どのくらいの負担になっているのかを聞こうとした。しかし、それは叶わなかった。

「本人は、祖父の世話をするのは当たり前で、特に大変だとは思っていなかったのです。あなたのようなケアラーを支援する窓口ができたのですと話しても、違和感を覚えているようでした。祖父を世話していることは友達や学校にも言えているので、私は大丈夫ですという。

こうなると、ケアマネージャーや支援センターから話を聞いて、祖父へのサポートを充実させるという間接的な対策をとるしかありません。このような事例は、たくさんありました」

末廣が次のように続ける。

「はっきり言って、かなり厳しい事例ばかりでした。例えば、1人親と子ども2人の3人の世帯で、下の子が重度の障害を持っていたのですが、親が病気で入院してしまいました。障害者支援センターのサポートはあるのですが、仕事をしながら障害児の世話をする上の子にケアラーとしての大きな負担がかかります。

そこで、障害者支援センターや区役所の職員、ヘルパーを派遣する事業者たちを一同に集めて会議を開きました。関係者全員が問題点を共有したのですが、健常者であるケアラー本人を支援する制度はありません。会議では、ショートステイやデイサービスを増やすことで支援しようとしました」
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文・写真=多名部重則

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