米国のインフレが今後どうなるかは読みづらいが、物価高が抑えられつつあることを示唆する兆しもいくつかみられる。一方で、物価の抑え込みはリセッション(景気後退)をともなうおそれが強いのも確かだ。
商品価格の下落
商品先物の価格動向を追跡する「S&P・GSCI商品指数」は現在、6月につけたピークから20%ほど下落し、今年2月の水準に戻っている。商品価格の急騰が今回のインフレ危機の初期にみられた事象のひとつだったことを考えると、これはインフレ沈静化に向けた朗報なのかもしれない。
もっとも、商品はもともと値動きが荒いものではある。また、米国のインフレは今では商品以外にも広がっているから、商品が値下がりしただけでは物価高は抑えられないだろう。それでも、商品価格が現在の水準で推移するか、あるいはさらに下がるかすれば、物価上昇に歯止めをかける要因のひとつにはなりそうだ。
長期国債の利回り低下
6月以降、債券の利回りも低下している。10年物米国債の利回りは6月には3.5%に迫ったが、足元では3%を切っている。要因はいろいろ考えられるが、予想インフレや予想金利が関わっているのは間違いない。
債券の利回り低下は、インフレに対する懸念が後退していることを示唆しているのかもしれない。ただ、残念ながらこれも商品価格の下落と同じように、リセッションが近づいている予兆とみることもできるだろう。
住宅価格の謎
6月のCPIで気にかかるのが、住宅価格の動向だ。米労働省が発表したCPIでは、住宅価格の過去1年の上昇率は5.6%だった。ここで重要なのが、住宅価格はCPIの算出で大きな割合を占めているという点だ。にもかかわらず、CPIでの住宅価格の伸び率はほかの調査に比べるとかなり低く出ている。
たとえば、不動産情報サイト「ジロー」によると、米住宅価格の過去1年の上昇率は20%近くに達している。つまり、CPIのデータでも住宅価格がほかの多くのソースと同水準の伸びとなっていた場合、全体の物価上昇率はおそらくさらに高くなっていたということだ。
繰り返せば、6月のCPIはマイナスの意味での驚きであり、FRBはいちだんと積極的な利上げに動く可能性がある。一方で、6月以降の商品価格の下落や債券利回りの低下は、市場がインフレは峠を越えたという見方を強めている表れととらえることもできる。