トヨタ・センチュリーの「控えめな魅力」は、果たしてイギリス人にも理解できるのか?

David Roscoe-Rutter

日本の超保守富裕層のために作られた控えめな大型セダンはV12エンジンを隠し持つ。グレン・ワディントンがトヨタ・センチュリーのエキゾチックなカルチャーを探る。


グレン・ワディントン?オクタン誌の?」トヨタ・センチュリーの後席から降りようとしたとき、エントランスでベルボーイたちの声が聞こえてきた。マンチェスターの高級ホテルに乗り付けた我々の車両を見かけるなり、コンシェルジュが暗く輝く大理石の前庭を横切ってきた。フロントバンパーの旗竿に気づいたのか(本当はコーナーポールだが)、長くてシンプルながら威厳ある姿に緊張感を覚えたのか…。私の顔がVIPリストに載っていないことを目視確認したコンシェルジュは、車を移動させるよう伝えてきた。そして、コンシェルジュが「聞いたこともないやつだ」と小声で言ったように聞こえた気がした。

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コンシェルジュの無礼は問題ではない。重要なのは、コンシェルジュが見かけた車からVIPの出現を予期していた、ということだ。だが、この車の正体にいささか困惑していたようでもある。“トヨタ車からVIP?まさかねぇ?”と思ったに違いない。これは単なるトヨタ車ではなく天皇家の公用車であり、日本の経済界の重鎮たちが乗るトヨタ・センチュリーである。「運転手の方、秘書の方からご評価いただいて初めて、私たちの仕事は完了します」なんて文言が本気でカタログに謳われる車だ。

日本で街中をセンチュリーで走っても注目の的になるわけではないが、停車すると静かな視線が集まってくる。見守るようでもあり、敬意を評されているようでもある。センチュリーを作った国でのエチケットは、車が放つ存在感から生まれたのだろうか。そして、控えめであることは、センチュリーの魅力にも感じられる。

null上から見るとセンチュリーのサイズ感がわかりやすい。

車内の雰囲気は落ち着ついている。動くものはすべてが電動、エアコン、後席用のDVDプレイヤーなど、装備のレベルは高いが、どの装備もワンランク上を思わせるようなものではない。トヨタが「瑞響」と呼ぶ伸縮性に優れ、上質な肌触りのウールファブリック素材のシートは夏に涼しく、冬は暖かく、本革とは違って身体が動いても音がしない。ショーファーカーゆえに本革のほうがヤレにくく、掃除しやすいが… なお、ショーファーカーゆえに個人で購入するオーナーでも、自ら運転するのは1割に過ぎないと言われている。

nullオーナー自らステアリングを握ることは稀。

ダッシュボード、センターコンソール、ドア、シートバックにはローズウッドの一枚板が使われ、その一枚一枚が手作業によるカットおよび研磨が委託先のヤマハによって行われている。FZR1000のような高級バイクに装着している…、のではなく、日本の高級グランドピアノメーカーならではのノウハウが如何なく発揮されている。日本古来の技術である漆塗りについては、後述するとしよう。それでいて、多くのプラスチックを見かけもする。ダッシュボードの表面やスイッチ類は一般的なトヨタ車との共通点を感じる。カーナビモニター部分が開閉するのは目新しいものだったが、ATシフトはカムリっぽさを感じさせるし実際、そうであっても何ら驚かない。

nullタッチスクリーンを使いこなすには日本語を学ぶ必要がある。
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