この論文によると、温室効果ガスの排出量上位5カ国は、米国、中国、インド、ロシア、ブラジルだ。これら5つの国が世界経済にもたらした損失額は、合計で6兆ドルに上る。この額は、調査した25年間における世界全体の国内総生産(GDP)の11%に相当するという。
排出量の上位2カ国は中国と米国で、それぞれ1兆8000億ドルの経済的損失をもたらした。続くインド、ロシア、ブラジルが同時期に世界にもたらした損失額は、それぞれ5000億ドルあまりだった。
GDPが高く、他国より温室効果ガスの排出量が多い国々は、「自国が利益を得る一方で、低所得・低排出の国々に損害を与えてきた」と論文著者は述べている。特に大きな損害を被ってきたのが、「グローバル・サウス」とも呼ばれる発展途上国だ。こうした国々では、気温がより高温化しやすいことによって、農業生産が妨げられ、労働生産性が低下し、工業生産高が減少している。
この研究では、143カ国から収集された経済データならびに気象データが使われた。温室効果ガスの排出量上位10カ国がもたらした経済的損失は、全体の3分の2以上を占める、と論文には書かれている。
国連が2022年2月に発表したリポートは、今後20年で世界の気温が摂氏1.5度上昇した場合には「深刻な影響」が生じ、「その影響は取り返しがつかないものとなる」と警鐘を鳴らしている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の李会晟(ホーセン・リー)議長はこのリポートについて、「行動を起こしてこなかった結果についての緊急警告」だと述べた。
ジョー・バイデン米大統領は、2030年までに温室効果ガスの実質排出量を2005年比で50%から52%削減するという目標を掲げている。しかし、達成されるかどうかは不透明だ。石炭を産出する南部の複数州が、米環境保護庁(EPA)には温室効果ガス排出を規制する権限がないと訴えていた裁判で、米最高裁は2022年6月30日、EPAは規制を過度に拡大したと判断し、大気汚染防止法(Clean Air Act)の下で発電所の温室効果ガス排出を規制するEPAの権限を制限した。
EPAが公表したデータによると、米国で2020年に排出された温室効果ガスのうち、約27%を交通輸送が占める。以下、発電(25%)、産業(24%)、商業・住宅(13%)、農業(11%)が続いている。
「温室効果ガスが世界のGDPにもたらした損失」に占める米国の割合は、16.5%と最大だ。続く2位は中国で、15.8%となっている。
論文筆頭著者のクリストファー・キャラハン(Christopher Callahan)は、こう述べている。「この研究は、気候変動への責任をめぐる主張に科学的根拠があるのかという問いに対して答えを提供している。その答えは『イエス』だ」
論文によれば、米国が排出した温室効果ガスにより、メキシコは795億ドルの損失を被った一方で、カナダは2472億ドルの利益を得た。これは、地球温暖化によって、気温が高く産業発展が遅れている開発途上国のほうが大きな影響を受けることを示していると科学者たちは述べている。