さて、話題のエンジンだ。直列6気筒の3リッター直噴ターボエンジンは最高出力387psと最大トルク500Nmを発生。どの回転数からアクセルを踏んでも、ほとんど “ターボラグ” がなく、どこからでも滑らかなパワーが湧き出る加速感は気持ちがいい。今回はパドル付きの8段ATと組み合わせているので、シフトが非常にスムーズで素早い。微妙なスロットル操作にも緻密に応えてくれる直6だけでなく、4WDのパワートレイン全体の引き締まった剛性感とスムーズさは後輪駆動BMWの最大の美点である。たまたま同じ日に取材した最新の電気自動車から乗り換えても、ひいき目なしにこちらのほうが滑らかだと感じたほど。4WDのグリップは凄まじいので、0-100km/h加速は4秒フラットというから、なんと「M2」と同様。
ステアリングはピンポイントで狙った通りにコーナリングしてくれるし、乗り心地も固めだけど、決して荒々しくはない。コーナーではとにかく安定している。アダプティブMサスペンションを備えているせいか、M2のように意地を張ってじわじわと進むのではなく、丁寧に正確に曲がってくれる。サスペンションの見直しやアンダーフロア各所に施された補強と、Mスポーツのディファレンシャルと、路面を噛み付く4WDの組み合わせで、これほど強烈なトラクション性能を持つクルマは他にほとんど例がない。Mスポーツのブレーキは標準装備で1710kgの車重をパッと止められる制動力は凄い。
インフォテインメントシステムも最新世代にアップデートされており、会話型音声コマンドを完備している。BMWユーザーには響くだろうけど、ACCには渋滞時の再発進機能は備わらず、また一定条件下でのハンズオフ機能が備わらないところは3シリーズと異なる。
ルックスは良いし、パワーもハンドリングも抜群。室内のデザインや高級感も頷ける。基本価格は758万円だけど、少しオプションを付け足すと、すぐに840万円ぐらいになる。でも、よく考えると、何しろ6気筒ターボの4WDなので、そのへんを納得してもらうしかないと思う。これだけそろっていると、M2は必要かなと疑う人もいるだろう。あの紫色のボディカラーだけはあなた次第。僕は好きだけどね。
国際モータージャーナリスト、ピーター・ライオンが語るクルマの話
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