小売スタートアップ企業のエンジョイ・テクノロジー(Enjoy Technology)は2022年6月30日、米連邦破産法第11条の適用を申請すると発表した。同社が、特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じて株式上場を果たしてから、わずか9カ月後のことだ。
またひとつ、SPACの負け試合となった。そして、今後も同様のことが続きそうだ。
2年前のパンデミックのさなか、SPACは大流行した。世界経済全体が停止するなか、いわゆるブランク・チェック・カンパニー(白紙小切手会社)がワクワクするような成長の見込みを提供しているように見えたのだ。しかし残念なことに、その期待感は決して現実にはならなかった。
従来のスタートアップ企業は、「ベンチャーキャピタル地獄」で苦労しつつ、何年もかけて株式上場を果たしてきた。スタートアップは、流れ出す赤字のなかを、何度も資金を調達しながら、経営陣がなんとか舵をとりつつ、事業を黒字化させることを強いられる。新規株式公開(IPO)は、経営の成功に対する報酬だ。さらにIPOは、ウォール街の投資銀行が、その企業の信頼性を保証しようとしているサインでもある。
ほとんどのSPACはその逆だ。
SPACは、審査を回避する構造になっている。株式プロモーターや金融業者は、主要取引所に対して上場を申請する。その目的は、現金のみを保有することで、米証券取引委員会(SEC)への申告義務を回避することにある。こうした直接上場は、この白紙小切手会社が、継続するとされる企業と合併することで実現する。そこにアンダーライター(主幹事)は存在しない。投資家に代わってデューデリジェンスを行う者は誰もいないのだ。
2020年と2021年のあいだに、それぞれ248件と613件のSPAC案件があった。多くの未熟な企業が、アイデアとセールスピッチだけをもって公開市場へと急がされた。投資家は、このプロセスが不調に終わったことに驚くべきではない。すべては詐欺だったのだ。
今回破産法11条申請を行ったエンジョイのロン・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は、1年前にブルームバーグ・テクノロジーの取材に応じた際に、異なる話をしていた。アップルの元幹部である同氏は、エンジョイには明確な収益性が見えると主張した。そして、SECに提出した資料では、2023年までに純利益を上げ、2年後には10億ドルの売上高を見込んでいた。