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2022.06.28

VR内覧のスタイルポートが好調 不動産市場で勝ち抜く差別化のカギとは

スタイルポートCEO 間所暁彦(撮影=藤井さおり)


スタイルポートのCEO、間所暁彦(まどころあきひこ)がROOVを生み出した動機は業界慣習への違和感だった。

「マンション事業って無駄が多いんです。1棟の物件を売るために実際の家具配置をしたモデルルームを作る。その部屋のパターンは一つか二つで、あとは図面を見て購入判断をしてもらい、販売終了後には壊す。そこにかかるコストがもったいないと。

これをデジタル化できれば、場所も時間も問わずに全室を把握でき、モデルルームは不要になります。ここにニーズがあるのではないかと思い、プロダクトを作れる人を血眼になって探しました」

プラットフォームを自前で開発


いまでこそ導入が進むが、ROOVの開発を行っていた2017年頃、不動産テックは冬の時代を迎え、多くの企業が撤退していた。VRは「没入感や空間を360度見渡せる非日常体験」を唄い、モデルルームに人を呼び込むための話題作りとして活用されるにとどまり、スタイルポートも資金調達に苦労していた時期だった。

苦戦を強いられるなか、リクルートが展開する住宅情報サイトのSUUMOがROOV初の顧客となった。事業のプレゼンを行うと、総立ちでの拍手喝采が起き「手応えを感じた」と、間所はいう。

その後、不動産業者がSUUMOに物件を掲載する際に、追加料金を支払うことでROOVのVR内覧をページ内に設置できる商品として販売をスタート。

しかし、当初売れ行きは芳しくなく、SUUMOや導入先から挙がる厳しい要望に応える形でROOVの改良を重ねていった。実はこの柔軟な対応こそ、同社が不動産のVR市場を開拓できている勝因なのだという。

VRを使った3DのCGサービスを作る際には、手間を省くため、主にゲームの開発に使われる海外の既存プラットフォームを活用するケースが多い。しかしスタイルポートは2年をかけ、プラットフォームから自社で開発した。

「最初は海外の製品を利用しようと思い、エンジニアにも試行錯誤を重ねてもらいました。しかし、ROOVのインターネット上でのスムーズな動きやスマートフォンでもストレスない読み込み速度を達成するには限界がありました。ゲーム専用機ではない一般的なデバイスでは、メモリー不足で落ちてしまったり、動作が止まってしまったんです」

間所暁彦

容量の重い3Dを表示したり、住宅に特化した高い質のプロダクトを求めるがゆえに「なすすべなく自分たちで作ることにした」と間所は振り返る。

自前である以上プラットフォームの保守管理などリスクは伴うが、その分顧客の要望や業界の変化に柔軟に対応できる。図面の受け取りからVR化まで3日というスピードも、スタイルポートの競合優位性の一つだ。

ROOVのセールスにあたっては、間所の不動産業界における経歴や年齢も味方したという。不動産会社の役員として、事業計画の立案や構成、開発、販売への引き渡しといった業務のほか、過去には野村不動産や三井不動産とジョイントベンチャーを立ち上げた経験もあった。
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文=露原直人 写真=藤井さおり

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