江戸文化学研究の権威であり、東京六大学で初の女性総長(学長と理事長を兼務する仕事)となった法政大学19代総長、田中優子氏は、その問いにこう答えた。
「歴史を知ることは、頭を柔軟にします。いまある世界の常識にとらわれなくていいんだということ、そして家族のあり方も企業のあり方も社会のあり方もいまの姿が正しいとは限らないんだということを知るのはとても重要です。そうすると今度は、じゃあ“私”はどうしたいのかということを考えられるようになる。『こういうものだから』と凝り固まらずに、『こうありたいから』で一人ひとりが想いを練り上げていくことができるようになるはずです。歴史を振り返るのは戻るためではなく、むしろ現代の固定観念を壊すためなのです」
また、イノベーションを体系化した書籍『進化思考━━生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』の著者であり、デザインストラテジストの太刀川英輔氏は、本誌の取材のなかで、こう話している。
「新しいデザインとは、系譜のなかに新しい歴史をつくることにほかならないと考えています。それは、創造の歴史的文脈を知り、その文脈に潜む願いを引き受け、現代への適応性を探るということです。
しかし日本を振り返ってみると、江戸時代の公用書体であった御家流(くずし字)の廃止などにより、私たちは数百年にわたって積み上げた文化のリソースにアクセスできないという『文化における系統の分断』も経験しています。さまざまな社会危機に直面する我々にとって、いまサステナブルな江戸(過去)から問い直すという視点は非常に大きな意味をもつはずです」(本誌P48より)
環境や食糧問題、人口減少に超高齢化社会への突入と、私たちは今、「持続可能性」について誰もが目をそらすことができない時代を生きている。社会を変えるイノベーションを起こすために、そしてさまざまな危機を乗り越えるために、歴史を見つめ、現代のあり方を考え直し、未来を切り開いていく必要があり、それこそがEDOlogy Thinkingで伝えたいことなのだ。
これまで、国外の先進事例を取り上げながら、さまざまな働き方を提案してきた「WORK MILL」が、今回はじめて日本の「江戸時代」へと時間遡った理由もそこにある。
巻頭のスペシャルインタビューでは、「ヘドニスティック・サステナビリティ(快楽主義的持続可能性)の提唱者であり、世界的建築家のビャルケ・インゲルスに、私たちが進むべきサステナビリティのあり方について話を聞いた。
COVER特集では「EDOlogy Thinking-江戸×令和の持続可能な働き方-」と題し、現代と江戸時代を行き来しながら、よりよい社会づくりとそこに向けての働き方改革へのヒントをさまざまな切り口から探っている。
また、第2特集では、「FUTURE HEALTH」を掲げ、楽しく長く働き続けるための、心と体の健康のあり方を追求した。
現代、過去、未来。そのすべてはつながっている。
Today is the scholar of yesterday.(今日はきのうの弟子)
より素晴らしい未来を見るために、本誌を開いてみてほしい。
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【目次抜粋】
<巻頭インタビュー>
建築家/ビャルケ・インゲルスが提示する「“持続可能” なサステナビリティ」
<COVER STORY>
EDOlogy Thinking
-江戸×令和の持続可能な働き方-
▶︎Thinking1:「己」——利己を追求しない自己実現が豊かさを生む
・九代玉屋庄兵衛×オリィ/吉藤健太朗「江戸to令和のからくり技師対談」
・ジャーナリスト/佐々木俊尚「“新しい働き方”が問い直す近代社会のあり方」
・Schoo/森健志郎+歴史エッセイスト/堀江宏樹「令和の寺子屋で学びのアップデートを」
・ADDReC/福島大我「社会の中で『己』を昇華させる組織づくり」
ほか
▶︎Thinking2:「連」——“やってみたい”で集まって創造し続ける
・北条SANCI/横石崇 「“現代版・連”を生み出すこれからのオフィス」
・アドリブワークス/山岡健人「オンラインで拡大する連の可能性」
・NOSIGNER/太刀川英輔「分断を乗り越える『膜』をつくる」
ほか
▶︎Thinking3:「環」——人もコミュニティも自然もすべては巡るもの
・面白法人カヤック/柳澤大輔「鎌倉で追求する現代の『三方良し』の商いとは?」
・アーバンファーマーズクラブ/小倉崇「都市農業で実践する社会課題へのアプローチ」
・コレクティブハウジング社/宮本諭+アイソメ/栗生はるか「現代の長屋に見る持続可能な暮らし」
・ファーメンステーション/酒井里奈「循環には、自分が拡張する喜びがある」
ほか
<COLUMN>
Challenges for A SUSTAINABLE WORLD
-スペースサスティナビリティ、サステナブルツーリズム、サステナブルファイナンスから見る未来
<PHOTOGRAVURE>
WORKPLACE TODAY
-KADOKAWA、BONUS TRACK、SANUがつくり上げる新しいワークプレイス
<2nd STORY>
FUTURE HEALTH
・環境神経学研究所/藤本靖「アクティベーションの可能性」
・幸福学研究者/前野隆司「コロナで変わる働く幸せの7つの因子」
ほか
<COLUMN>
はたらくをミル
-NEC、ラクスル、ワンキャリアが見つめるいまの働き方
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