テキサス州サンアントニオのトリニティ大学で金融の学位を取得したパース・トール(Perth Tolle)は、その翌年の2003年に香港で父親と暮らし、自分のルーツである中国の実情を知ることになった。
上海を訪れたとき、トールはマギーという女性と親しくなった。二人とも23歳だったが、その友人の暗い過去にトールはショックを受けた。中国で出生証明書を受けずに育ったマギーは、学校に通ったことがなかった。中国政府にとってマギーは存在しない人物だったのだ。
マギーは、1980年から2015年まで施行された共産党の一人っ子政策の犠牲となった何千万人もの子供の一人だった。両親にはすでに息子がいたため、彼女の出生を隠したままにしていた。
「あの政策は私たちの世代に取り返しがつかない影響を与えた。彼女に会ってそのことを実感した」と、北京生まれで9歳でアメリカに渡った現在42歳のトールは話す。
中国企業の株は、新興市場ファンドの中核を占めており、世界の新興国市場をカバーする株価指数「MSCI新興市場指数」の30%を占めている。しかし、トールが運営するETFの「フリーダムファンド(Freedom 100 Emerging Markets)」の投資先に、中国企業は含まれていない。
彼女がペンシルベニア州のアルファ・アーキテクトと運用するEFTはまだ比較的小規模だが、2021年初頭に3000万ドルだった運用総額は、現在は2億ドルに伸びている。このファンドはもちろん、ロシアにも投資していない。
その結果、今年に入りMSCIのインデックスが17%下落したのに対し、トールのフリーダムファンドは7.5%の下落にとどまっている。トールのファンドは、最近人気のESG(環境・社会・ガバナンス)ファンドに似たものと言えるが、環境への取り組みを重視する代わりに、投資先が個人の自由を侵害しない国の企業である点を重視している。
彼女のスタンスの正しさは、ここ数年、中国のハイテク企業の株が暴落したことでも証明された。中国政府は昨年、アリババに独禁法違反を理由に28億ドルの罰金を科したが、その後もアリババとテンセントは、政府の「共同富裕」構想に300億ドル(約4兆円)以上の資金を提供することを余儀なくされ、株価を暴落させた。