インフラのレベルで社会変革を起こすためには、規制のアップデートを避けては通れない。2022年4月に衆議院で可決された道路交通法の改正はその一例だ。法改正に至る一連のルールメイキングを主導したのは、電動キックボードのシェアリングサービスを手がけるLuup。地道な試行錯誤を経てたどり着いたルールメイキングの意義と価値とは。代表取締役社長兼CEOの岡井大輝が本心を打ち明ける。
首都圏や関西などで電動キックボードを見かけることが増えた。ヘルメットを着けずにカジュアルに利用している人も多い印象だが、実はこれは特例措置として限定的に認められているもの。現行法で電動キックボードは、原動機付自転車と同じ扱いだからだ。ヘルメットの着用義務がないのは、認定を受けた事業者が特定エリアで国の実証事業として展開しているシェアリングサービスを利用する場合のみだ。
しかし、状況は大きく変わろうとしている。この実証事業も含め、関連事業者が進めてきたルールメイキングの成果として、法改正が実現したからだ。2022年4月、道路交通法の改正案が衆議院で可決され、電動キックボードを主な対象として「特定小型原動機付自転車」という新しい車両区分が設定されることになった。車道20km/h、歩道6km/hという速度制限のもと、16歳以上なら免許不要、ヘルメット着用も任意で利用できるようになる。
法改正に至る一連のルールメイキングを主導したのは、Luup社長兼CEOの岡井大輝だ。同社は電動キックボードや小型電動アシスト自転車のシェアリングサービスを手がけるスタートアップ企業。岡井は東京大学農学部を卒業し、戦略系コンサルファームを経て18年7月、20代半ばで起業した。現時点で累計資金調達額は約46億円と投資家の評価も高い。
一見、気鋭の若手起業家がビジネスチャンスを追求するために派手に仕掛けたと見えるかもしれない。しかし実態は、自らの事業の社会的な価値を信じて突き進むしかない、なかなか困難な道のりだった。
Luupが電動キックボードのシェアリング事業を手がける背景には、小型の電動モビリティとポート(駐輪場)を街中に配置して日本の都市を進化させたいというビジョンがある。「日本は早い段階で鉄道が発達して、圧倒的に便利で巨大な公共交通網を形成しました。これを補完するかたちで、その先の移動をより滑らかに効率的に行うことができる手段が普及すれば、もっと社会が豊かになるはず」と岡井は話す。
その先には、高齢化対策としての電動モビリティの可能性を見据えている。体力がない人でも手軽に扱うことができる電動の車体があり、これにIoTを組み合わせて車体の状態把握や保守に役立てたり、遠隔制御で安全な運転の支援までできる安価なモビリティサービスが実現できれば、高齢者や交通弱者の生活の大きな助けになる。世界中で普及し始めている電動キックボードはその足がかりという位置づけだった。