岡井には、ここまでのルールメイキングの取り組みでからめ手や飛び道具を使ったという意識はない。「先生」がいたわけでもなく、国会議員や官僚に人脈があったわけでもないという。自分たちが掲げるビジョンを実現するために、試行錯誤を続けながら必要なプロセスを手探りで構築してきたというのが偽らざる感覚だ。
「ルールメイキングってすごく大変なので、『やらずに済むならそれに越したことはない』と思います。ただ、既存のルールを変えずに済む技術革新って少なくなっているのも確かで、経営の重要なテーマとして扱わなければならない時代が来ているのかもしれません」
今回の法改正を巡っては、モビリティサービスの「ラストワンマイル」を整備するために必要な規制緩和だという評価がある一方で、主に安全面での懸念を指摘する声も少なくない。改正道交法は2年後をめどに施行される見込みで、詳細なルールの議論は今後も続く。事業者側としては、協議会を主体としてハード・ソフト両面で安全対策の統一的な基準づくりなどを提言していく。
岡井は将来的に、小型電動モビリティの利用環境に深く関わってくる都市計画の領域にも踏み込んで、長期的な視点でのルールメイキングに辛抱強く取り組んでいく構想だ。自らの事業の価値を信じているからこそ、やり切る覚悟は揺らいでいない。
Forbes JAPAN 2022年8月号は、新しい市場創造の手段として、規制緩和や国際標準化の取り組みなど、ルールメイキングの基本から成功パターンまでが一挙にわかる一冊。欧米で注目されている「修理する権利」の推進でGAFAMを突き動かした米iFixit・カイル・ウィーンズの独占インタビューをはじめ、ダイキン工業やヤマト運輸、メルカリ、マネーフォワードなど、いま最も勢いのある国内外のルールメーカー約40組を公開。合言葉は、「誰にでも、ルールはつくれる、変えられる」だ。