実証実験のための実証実験
同時に、各省庁との議論をスピーディかつ効率的に進めるためには、事業者側の窓口を一本化し、業界全体で健全な市場づくりを進める仕組みが必要だという課題も浮上していた。そこで岡井は課題意識を共有できる関連事業者を巻き込み業界団体の設立を主導、19年5月に「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、自身が会長に就いた。
「日本はそもそも、道交法改正に必須である公道での実証のハードルが高い。公道での実証を安全に行うための実証実験を私有地で重ねる必要があるし、その許可を誰にどうとればいいのかという問題もありました。一つひとつの課題から逆算した取り組みを、業界を挙げて進められる体制ができたことが、スピード感を高めました」。
地方自治体との連携と業界団体の設立というふたつの要素が揃ったことで、関連省庁との本格的な議論は一気に加速した。その後、間を置かずに政府が管掌する実証プロジェクトも立ち上がり、19年10月、協議会参加企業による電動キックボードのシェアリング事業実施に向けた実証計画が、生産性向上特別措置法に基づく「新技術等実証制度」(規制のサンドボックス制度)の認定を受けた。大学構内の疑似公道でさまざまな実証実験を行った。
これを受けて、20年10月には産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」で公道(特定エリア限定)での実証実験計画が認定され、実証実験は次のフェーズに進んだ。当初は車体を原付扱いとして、自転車レーンを20km/hの速度制限で走行できるという特例措置が取られたが、シェアリングサービスではなくレンタル方式での実証となった。
しかし、21年4月には車両の枠組みを小型特殊自動車扱い(制限速度15km/h)とするシェアリングサービスでの実証実験に移行し、ヘルメット着用が任意に。一連の実証実験で得られたデータを詳細に分析したうえで、現時点での最適解として政府が打ち出したのが、冒頭に説明した法改正の内容というわけだ。